2012年07月18日
第1回 本の価値から電子書籍を想像する
2011年10月、日本語拡張仕様が実装された電子書籍フォーマットのひとつであるEPUB3.0の最終推奨仕様が、IDPF(International Digital Publishing Forum=米国の電子出版業界の標準化団体)より発表されました。オープンな電子書籍フォーマットであるEPUBで日本語の高度なレイアウトが扱えるようになったことにより、iPadの発売以降日本でもくすぶり続けていた電子書籍ビジネスの熱の温度が一段上がりそうな気配がしてきています。
大々的に宣伝されたITソリューションが、生活になかなか浸透しないまま終わっていくことはしばしばありますが、これまでビジネス的な話題性が先行した感もある電子書籍は、われわれの生活にどのように普及していくのでしょうか。
米国のAmazon.comでは2011年初めに電子書籍の販売部数が紙版書籍を超えています。英国のAmazon.co.ukでもUK Kindle Store開設から一年未満で電子書籍の売上げがハードカバーの売上げを抜いたといいます。国内でも、電子書籍市場は緩やかではありますが規模を拡大しつづけています。
国内の雑誌・書籍販売額は減少し続けているとはいえ、現状の電子書籍の市場規模は紙の書籍の5%に届かない規模です。市場規模を見ればまだ先を占うのも難しい現状ですが、緩やかながらも成長を続ける電子書籍に、新しいユーザーをひきつけるフロンティアになるだろうと多くの出版関係者が期待しているのではないかと思います。
これまでマスメディアが担っていた情報を伝える役割がネットでのコミュニケーションに重心を移しつつある今、紙の本がこれまで行ってきた読者の創造や出版の文化の発展は、インターネットと親和性の高い電子書籍がどれだけ新しい価値を提示できるかにかかっているのではないでしょうか。
電子書籍のページは、基本的にHTMLや画像などで構成されます。個人の所有するコンテンツがクラウドに置かれて、どんな場所からでも自分の所有するコンテンツをインターネット経由で楽しめるようになる時代、ブログやニュースサイトの記事と電子書籍の差はかなり曖昧になっているようにも感じます。
それでは「Webページ」の集合を超えて、「本」として新しい価値を提供するためには、電子書籍はどのようなソリューションであれば良いのでしょうか。
電子書籍の価値を考える前に、従来の本の価値が何かを考えてみると、本にはまず情報(経験であったり物語であったり)を人に伝えるという基本的な機能があり、本の情報を伝えるという基本となる機能は、さらに細分化することができます。
ソリューションとしての本の付加的な価値は、「作る」、「運ぶ」、「ナビゲーションする」、「刺激する」という4つの機能であると考えることができます。以下に、それぞれの機能について詳しくみていきましょう。
1)作る
本の出版は、商業的に大規模に行われることもあれば、紙を綴じただけのごく簡単な製本によって個人的に簡単に行うこともできます。印刷技術の多くはコモディティであり、印刷コストは限界近くまで下がっています。
2)運ぶ
「本」は情報が書き込まれたデーターストレージであり、コンテンツ体験のインターフェースでもあります。書店で「本」を売ればデータとインターフェースをセットでユーザーに渡すことができます。「本」を誰かに手渡しすれば簡単に「本」を読んでもらう事ができます。本は、データとインターフェースを簡単に運ぶことのできるメディアだということができます。また、デザインされた本の装丁を見れば、本自体が「本」のPRとして機能していることがわかります。本はポータビリティの高い自分自身のPRメディアであるともいえるのです。
3)ナビゲーション
本はメディアであると同時に、ノートのようなツールにもなります。傍線を引いたり、書き込みをしたり、付せんを挟むことで本を理解するための補助とすることができます。
また、本の直線的な(プロローグからエピローグへとすすむ)ページ構成は、著者の考察の過程を再現し、理解の順序を読者に明示します。本は、ただ情報を示すのではなく、理解をナビゲーションする機能をもっています。
4)好奇心を刺激する
本の索引や見出しは、コンテンツの内容を想像させ、ページをめくらせるきっかけを作ります。優れた出版物のレイアウトは、ページの連続性を生み出し本を読み進める推進力になります。
簡単に作ることができ、人に読んでもらう事が容易で、理解を深め、好奇心を刺激することができること。これは、従来の本としては当たり前なことかもしれません。
しかし、これらの本の価値を新しいインターフェース、インターネットのコミュニケーション、クラウドやモバイルのテクノロジーの力を利用して実現することが、電子書籍が従来の本の価値を継承しながら普及するために超えなくてはならない最初のハードル なのではないかと思います。
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◆このコラムのほかの回を読む
第1回 本の価値から電子書籍を想像する
第2回 理解をナビゲーションする電子書籍デザイン
第3回 電子書籍と読書体験のクラウド化
第4回 EPUB 3
第5回「本」だけではない電子書籍活用アイデア
第6回 ブログから電子書籍を作るには(1)
第7回 ブログから電子書籍を作るには(2) (最終回)
大々的に宣伝されたITソリューションが、生活になかなか浸透しないまま終わっていくことはしばしばありますが、これまでビジネス的な話題性が先行した感もある電子書籍は、われわれの生活にどのように普及していくのでしょうか。
米国のAmazon.comでは2011年初めに電子書籍の販売部数が紙版書籍を超えています。英国のAmazon.co.ukでもUK Kindle Store開設から一年未満で電子書籍の売上げがハードカバーの売上げを抜いたといいます。国内でも、電子書籍市場は緩やかではありますが規模を拡大しつづけています。
国内の雑誌・書籍販売額は減少し続けているとはいえ、現状の電子書籍の市場規模は紙の書籍の5%に届かない規模です。市場規模を見ればまだ先を占うのも難しい現状ですが、緩やかながらも成長を続ける電子書籍に、新しいユーザーをひきつけるフロンティアになるだろうと多くの出版関係者が期待しているのではないかと思います。
これまでマスメディアが担っていた情報を伝える役割がネットでのコミュニケーションに重心を移しつつある今、紙の本がこれまで行ってきた読者の創造や出版の文化の発展は、インターネットと親和性の高い電子書籍がどれだけ新しい価値を提示できるかにかかっているのではないでしょうか。
電子書籍のページは、基本的にHTMLや画像などで構成されます。個人の所有するコンテンツがクラウドに置かれて、どんな場所からでも自分の所有するコンテンツをインターネット経由で楽しめるようになる時代、ブログやニュースサイトの記事と電子書籍の差はかなり曖昧になっているようにも感じます。
それでは「Webページ」の集合を超えて、「本」として新しい価値を提供するためには、電子書籍はどのようなソリューションであれば良いのでしょうか。
電子書籍の価値を考える前に、従来の本の価値が何かを考えてみると、本にはまず情報(経験であったり物語であったり)を人に伝えるという基本的な機能があり、本の情報を伝えるという基本となる機能は、さらに細分化することができます。
ソリューションとしての本の付加的な価値は、「作る」、「運ぶ」、「ナビゲーションする」、「刺激する」という4つの機能であると考えることができます。以下に、それぞれの機能について詳しくみていきましょう。
1)作る
本の出版は、商業的に大規模に行われることもあれば、紙を綴じただけのごく簡単な製本によって個人的に簡単に行うこともできます。印刷技術の多くはコモディティであり、印刷コストは限界近くまで下がっています。
2)運ぶ
「本」は情報が書き込まれたデーターストレージであり、コンテンツ体験のインターフェースでもあります。書店で「本」を売ればデータとインターフェースをセットでユーザーに渡すことができます。「本」を誰かに手渡しすれば簡単に「本」を読んでもらう事ができます。本は、データとインターフェースを簡単に運ぶことのできるメディアだということができます。また、デザインされた本の装丁を見れば、本自体が「本」のPRとして機能していることがわかります。本はポータビリティの高い自分自身のPRメディアであるともいえるのです。
3)ナビゲーション
本はメディアであると同時に、ノートのようなツールにもなります。傍線を引いたり、書き込みをしたり、付せんを挟むことで本を理解するための補助とすることができます。
また、本の直線的な(プロローグからエピローグへとすすむ)ページ構成は、著者の考察の過程を再現し、理解の順序を読者に明示します。本は、ただ情報を示すのではなく、理解をナビゲーションする機能をもっています。
4)好奇心を刺激する
本の索引や見出しは、コンテンツの内容を想像させ、ページをめくらせるきっかけを作ります。優れた出版物のレイアウトは、ページの連続性を生み出し本を読み進める推進力になります。
簡単に作ることができ、人に読んでもらう事が容易で、理解を深め、好奇心を刺激することができること。これは、従来の本としては当たり前なことかもしれません。
しかし、これらの本の価値を新しいインターフェース、インターネットのコミュニケーション、クラウドやモバイルのテクノロジーの力を利用して実現することが、電子書籍が従来の本の価値を継承しながら普及するために超えなくてはならない最初のハードル なのではないかと思います。
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◆このコラムのほかの回を読む
第1回 本の価値から電子書籍を想像する
第2回 理解をナビゲーションする電子書籍デザイン
第3回 電子書籍と読書体験のクラウド化
第4回 EPUB 3
第5回「本」だけではない電子書籍活用アイデア
第6回 ブログから電子書籍を作るには(1)
第7回 ブログから電子書籍を作るには(2) (最終回)
Posted by eしずおかコラム at 12:00