2012年08月22日
第3回 電子書籍と読書体験のクラウド化
電子書籍が紙の本より優れている点の一つに、電子書籍のインターネットサービスとの親和性の高さをあげることができます。電子書籍の読書環境は、タブレットにしろPCでの閲覧にしろ、ほぼ何らかの形でインターネットへのアクセスが可能です。また電子書籍の読書環境は、基本的にブラウザーでありコンピューターの機能の一部であるということもあり、Webサービスを利用するアプリケーションとして機能させることができます。
読書環境がインターネットのサービスと連携し、書籍をアプリケーション化することで、オンラインサービスを利用して様々な情報の共有が進み、従来の読書体験の枠を拡張できる可能性が見えてきます。
個人の体験やリソースがオンライン上で共有されて、コラボレーションの基盤となっていくことを「クラウド化」と呼ぶようになってきました。インターネットで「クラウド化」された電子書籍は私たちの読書をどのように変化させるのでしょうか。
共有化された読書体験
オンラインで個人が体験を共有する目的は大きく2つ考えられます。一つは生活において有益な情報を入手し、また有益な情報を人に伝えるためであり、もう一つがコミュニケーションによって他者との関係性を築くためです。
自分との関係性の強い人(仕事、立場、住んでいる場所など)や趣味の近い人が良いと思うもの・勧めるものは、自分にとっても有益な情報である可能性が、Web上のランダムな情報に比べ高いはずです。面白い本を探したり、あるいは人に面白い本を教える為に、本棚や書評をクラウド化することは、効果的に自分達にあった本の情報を収集する有効な手段になります。
一方、SNSなどで相手の体験を承認することは人との関係性を確認しアップデートする意味もあります。また体験の共有化によって自分がどのような人物であるのかを(あると思われたいかを含めて)発信することもできます。ストーリーや批評・論評などがパッケージされた本は、自分の共感や信じる価値観を、リアクションとして他者に伝えやすい題材です。クラウド化された書評やコメントは自分の考え方や評価軸、または単純に好き・嫌いを伝えやすく、かつSNS上で自分と関わりを持つ人たちに反応してもらいやすいコンテンツです。
本にコメントやブックマーク、マーカーを付加し、オンラインで共有していくような読書は「ソーシャルリーディング」と呼ばれます。ソーシャルリーディング機能を持った電子書籍関連サービスはすでに数多くリリースされています。
AmazonのKindleには文中にコメントをつけてマーキング(ハイライト)する機能があります。ハイライトはAmazonのサーバーに蓄積され、書籍中多くのユーザーが気になった箇所が「ポピューラーハイライト」として共有されます。楽天が買収したKoboもページに感想を投稿でき他の読者の投稿した感想を読むことができる「Kobo Pulse」という機能をリリースしています。国内ではQlippyがソーシャルリーディングのプラットフォームをサービスとして提供しています。
ソーシャルリーディング機能は国内でも、電子書籍普及の大きな売りとなっていくはずです。このような機能が新しい本を知るチャンネルを増やし、オンライン上のコミュニケーションと相互作用的に本を読む動機を向上していくのではないかと思います。
クラウド化による読書の合理化
オンラインの各種サービスと連携することで電子書籍をコミュニケーション的利用にとどまらず論文の査読のような思考作業のための、読書と理解のためのツールとすることも可能になっていくでしょう。
自分の例になりますが、真剣に本を読むときは、本に付箋をはり、ラインを引き、書き込みをし、パソコンのテキストエディターにメモを取るというスタイルで読むことが多いです。読むことと考えることを同時に繰り返しおこない、正確に本の内容を評価しながら読む読書スタイルを「クリティカル・リーディング」と言いますが、Webサービスとの連携・アプリケーション化などの特徴をもった電子書籍は、このクリティカル・リーディングを強力にサポートしています。電子書籍端末内で、本を読むことはもちろん、メモをとったりブログやSNSなどに自分の考えをアウトプットする作業まで完結させることも可能になるはずです。
米国などでは「ブッククラブ」と呼ばれる、本を読んで意見を交換しあう読書会が盛んに開かれています。本を読み、適切な疑問を持ちそれを他者に伝えるというブッククラブの読書スタイルは、子供に限らず私たち全ての読者のリーディングリテラシー(読解力)やロジカルシンキング(論理的思考力)の向上に有効です。ブッククラブは日本ではそれほど流行っていませんが、電子書籍環境から直接本に関する意見を交換ができるようなオンラインのサービスが国内でも運営されるようになれば、多くの人に有益な新しい読書スタイルが実現できるのではないかと思います。
クラウド化した読書と共創的出版
電子書籍の執筆や編集は、オンライン上のツールを用い、個人的な書籍であればほぼブログのように編集し公開することが可能になっていきます。 出版コストがさほどかからない電子書籍は、ターゲットの限定されたごく少数の人たちを対象にした出版でも成立していく可能性があります。 読者との立場が極めて近い著者が本を執筆し、オンライン上で活発に意見を共有しあう読者と密接な関係を作って行くことで、クラウド化した読書は新しい本や新しい著者を生み出す基盤にもなって行くのではないでしょうか。
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◆このコラムのほかの回を読む
第1回 本の価値から電子書籍を想像する
第2回 理解をナビゲーションする電子書籍デザイン
第3回 電子書籍と読書体験のクラウド化
第4回 EPUB 3
第5回「本」だけではない電子書籍活用アイデア
第6回 ブログから電子書籍を作るには(1)
第7回 ブログから電子書籍を作るには(2) (最終回)
読書環境がインターネットのサービスと連携し、書籍をアプリケーション化することで、オンラインサービスを利用して様々な情報の共有が進み、従来の読書体験の枠を拡張できる可能性が見えてきます。
個人の体験やリソースがオンライン上で共有されて、コラボレーションの基盤となっていくことを「クラウド化」と呼ぶようになってきました。インターネットで「クラウド化」された電子書籍は私たちの読書をどのように変化させるのでしょうか。
共有化された読書体験
オンラインで個人が体験を共有する目的は大きく2つ考えられます。一つは生活において有益な情報を入手し、また有益な情報を人に伝えるためであり、もう一つがコミュニケーションによって他者との関係性を築くためです。
自分との関係性の強い人(仕事、立場、住んでいる場所など)や趣味の近い人が良いと思うもの・勧めるものは、自分にとっても有益な情報である可能性が、Web上のランダムな情報に比べ高いはずです。面白い本を探したり、あるいは人に面白い本を教える為に、本棚や書評をクラウド化することは、効果的に自分達にあった本の情報を収集する有効な手段になります。
一方、SNSなどで相手の体験を承認することは人との関係性を確認しアップデートする意味もあります。また体験の共有化によって自分がどのような人物であるのかを(あると思われたいかを含めて)発信することもできます。ストーリーや批評・論評などがパッケージされた本は、自分の共感や信じる価値観を、リアクションとして他者に伝えやすい題材です。クラウド化された書評やコメントは自分の考え方や評価軸、または単純に好き・嫌いを伝えやすく、かつSNS上で自分と関わりを持つ人たちに反応してもらいやすいコンテンツです。
本にコメントやブックマーク、マーカーを付加し、オンラインで共有していくような読書は「ソーシャルリーディング」と呼ばれます。ソーシャルリーディング機能を持った電子書籍関連サービスはすでに数多くリリースされています。
AmazonのKindleには文中にコメントをつけてマーキング(ハイライト)する機能があります。ハイライトはAmazonのサーバーに蓄積され、書籍中多くのユーザーが気になった箇所が「ポピューラーハイライト」として共有されます。楽天が買収したKoboもページに感想を投稿でき他の読者の投稿した感想を読むことができる「Kobo Pulse」という機能をリリースしています。国内ではQlippyがソーシャルリーディングのプラットフォームをサービスとして提供しています。
ソーシャルリーディング機能は国内でも、電子書籍普及の大きな売りとなっていくはずです。このような機能が新しい本を知るチャンネルを増やし、オンライン上のコミュニケーションと相互作用的に本を読む動機を向上していくのではないかと思います。
クラウド化による読書の合理化
オンラインの各種サービスと連携することで電子書籍をコミュニケーション的利用にとどまらず論文の査読のような思考作業のための、読書と理解のためのツールとすることも可能になっていくでしょう。
自分の例になりますが、真剣に本を読むときは、本に付箋をはり、ラインを引き、書き込みをし、パソコンのテキストエディターにメモを取るというスタイルで読むことが多いです。読むことと考えることを同時に繰り返しおこない、正確に本の内容を評価しながら読む読書スタイルを「クリティカル・リーディング」と言いますが、Webサービスとの連携・アプリケーション化などの特徴をもった電子書籍は、このクリティカル・リーディングを強力にサポートしています。電子書籍端末内で、本を読むことはもちろん、メモをとったりブログやSNSなどに自分の考えをアウトプットする作業まで完結させることも可能になるはずです。
米国などでは「ブッククラブ」と呼ばれる、本を読んで意見を交換しあう読書会が盛んに開かれています。本を読み、適切な疑問を持ちそれを他者に伝えるというブッククラブの読書スタイルは、子供に限らず私たち全ての読者のリーディングリテラシー(読解力)やロジカルシンキング(論理的思考力)の向上に有効です。ブッククラブは日本ではそれほど流行っていませんが、電子書籍環境から直接本に関する意見を交換ができるようなオンラインのサービスが国内でも運営されるようになれば、多くの人に有益な新しい読書スタイルが実現できるのではないかと思います。
クラウド化した読書と共創的出版
電子書籍の執筆や編集は、オンライン上のツールを用い、個人的な書籍であればほぼブログのように編集し公開することが可能になっていきます。 出版コストがさほどかからない電子書籍は、ターゲットの限定されたごく少数の人たちを対象にした出版でも成立していく可能性があります。 読者との立場が極めて近い著者が本を執筆し、オンライン上で活発に意見を共有しあう読者と密接な関係を作って行くことで、クラウド化した読書は新しい本や新しい著者を生み出す基盤にもなって行くのではないでしょうか。
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◆このコラムのほかの回を読む
第1回 本の価値から電子書籍を想像する
第2回 理解をナビゲーションする電子書籍デザイン
第3回 電子書籍と読書体験のクラウド化
第4回 EPUB 3
第5回「本」だけではない電子書籍活用アイデア
第6回 ブログから電子書籍を作るには(1)
第7回 ブログから電子書籍を作るには(2) (最終回)
Posted by eしずおかコラム at 12:00