2012年09月05日
第4回 EPUB 3
EPUBって何?
昨年10月、今後の電子出版にとって非常に大きな発表がありました。
電子出版フォーマットEPUB(イーパブ) 3の勧告(Recommended Specification)が発表され、これによりEPUBの最新バージョンの仕様が確定しました。
EPUBの仕様を策定した標準化団体であるIDPF(International Degital Publishing Forum)によると、EPUB は「Web標準をベースにした電子出版とドキュメントの配布と交換のための標準フォーマット」と説明されています。
EPUB 3の実体は、XHTML5や画像などのコンテンツ文書と構成ファイルやページの順番を記述したメタデータのパッケージ文書をEPUBコンテナにパッケージしたものです。簡単に言ってしまうと、EPUBはHTMLで記述されたWebコンテンツをメタデータとともにzip圧縮したアーカイブということになります。そのパッケージを、電子書籍の読書環境であるリーディングシステムが、ページめくりなどの独自のインターフェースを持たせながら一冊の書籍として描画することになります。Appleや楽天は自社のリーディングシステムであるiBooksやKoboでEPUBフォーマットに対応しています。
グローバルな言語への対応
これまでのバージョンに比べEPUB 3は何が新しくなったのでしょうか。
EPUB 3が今回最大に進化したと言えるのが、グローバルな言語への対応でしょう。EPUB 2の時代からすでに、米国やアジアの一部地域で利用されてきたEPUBは、今回多くの言語に対応したことにより、グローバルな電子書籍フォーマットになりました。これまでEPUBは欧米左開きの文章しか表示できませんでしたが、EPUB 3ではグローバルな仕様としてより多くの文化の文書を表現できるようになりました。その結果、縦書きやルビ、圏点(傍点)などの日本国内の電子出版に欠かせない日本語組版にも対応するようになりました。
EPUBは書籍を販売する際も、EPUB書籍を閲覧するためのリーダーを開発する際も利用料などを必要としません。無料で利用できるEPUBは日本を含めて、より多くの地域と文化で誰でも使える電子書籍のフォーマットとして普及していくのではないかと思われます。
HTML5をベースにした表現力の拡張
EPUBはHTML形式のフォーマットですが、EPUB 3ではXHTML5を採用しさらに多くのWebの機能がサポートされました。
・Javascript
EPUB 2では使用すべきでないものとされていたJavascriptですが、EPUB 3からドキュメントに含めてもよいことになりました。ただし、EPUB 3用のリーディーングシステムは必ずしもスクリプトをサポートする必要はなく、異なる読書環境で同じようにスクリプトが動作するかは保証されません。
・ビデオ・オーディオ
MP3などのオーディオやビデオの再生がサポートされました。ビデオに関してはコーデックの規定がありませんが、これから多くのEPUB 3対応のリーディングシステムがWebkitをベースに開発されると予想されるため、Webkitで主流のビデオコーデックであるH.264がEPUB 3のデファクトスタンダード的コーデックになるのではないかと思います。
またオーディオについては、テキストと同期した音声の再生が「メディアオーバーレイ」として単独の仕様として策定されています。
・フォント埋め込み
WOFFとOpen Typeの埋め込みがサポートされました。ただし日本語フォントについては、権利的に埋め込みが許可されているフォントの種類はあまり多くはありません。
・固定レイアウト
EPUBはリフロードキュメントの表示が基本ですが、今年に入り異なる環境でも同じレイアウトが表示される「固定レイアウト仕様」が追加モジュールとして策定されました。
このように、EPUB 3ではHTML5をはじめ多くのWebの標準規格が採用されています。オープンフォーマットでWeb規格を仕様に採用したことから、WebkitなどのHTMLレンダリングエンジンをベースにしEPUB 3に対応した多様な電子書籍リーダーが、スマートフォンやデスクトップPCなど様々な環境で登場することが今後期待されます。
また、EPUB 3がWebの標準規格を取り入れることで、ポテンシャルとして持つ表現力はほぼブラウザーの表現力に等しくなりました。EPUBコンテンツの制作にはWeb制作の経験やノウハウを活かすことができるため、インタラクションを伴った、新しい電子書籍の雑誌やコミックなど、「本」の表現の枠組を広げる電子出版のコンテンツがWebのクリエイター達によって生み出されていくかもしれません。
EPUB 3の普及で変わるもの
日本語に対応したEPUB 3の普及によって大きな恩恵を受けるのではないかと考えられる分野のひとつが、同人誌や個人出版のようなインディペンデントな出版物です。
EPUB 3が普及することで、特定プラットフォームに依存することのない電子出版のプロセスが確立します。iBooksをはじめ、EPUBに対応したリーディングシステムは既にいくつもあり、これからEPUBに対応した多様な読書環境がさらに増えていくはずです。インターネットに自分たちの制作したコンテンツを公開し、読者に伝える仕組みを持つことができれば、既存の配信プラットフォームを介さずに、自分たちのメディアから電子書籍を読者に届けることが可能になります。
電子書籍の配信プロセスが今よりオープンな仕組みに変わっていくことで、さらに大きな意味でのコンテンツ配信のプレーヤーやルールが変わっていく可能性もあるかもしれません。
参考
◆EPUB | IDPF
→ http://idpf.org/epub
◆いいパブッ!!はじめてのEPUB 3
→ http://www.slideshare.net/lost_and_found/epub-3
◆『EPUB 3 電子書籍制作の教科書』(林拓也 著)
→ http://www.amazon.co.jp/EPUB-3-電子書籍制作の教科書-林-拓也/dp/4774152420
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◆このコラムのほかの回を読む
第1回 本の価値から電子書籍を想像する
第2回 理解をナビゲーションする電子書籍デザイン
第3回 電子書籍と読書体験のクラウド化
第4回 EPUB 3
第5回「本」だけではない電子書籍活用アイデア
第6回 ブログから電子書籍を作るには(1)
第7回 ブログから電子書籍を作るには(2) (最終回)
昨年10月、今後の電子出版にとって非常に大きな発表がありました。
電子出版フォーマットEPUB(イーパブ) 3の勧告(Recommended Specification)が発表され、これによりEPUBの最新バージョンの仕様が確定しました。
EPUBの仕様を策定した標準化団体であるIDPF(International Degital Publishing Forum)によると、EPUB は「Web標準をベースにした電子出版とドキュメントの配布と交換のための標準フォーマット」と説明されています。
EPUB 3の実体は、XHTML5や画像などのコンテンツ文書と構成ファイルやページの順番を記述したメタデータのパッケージ文書をEPUBコンテナにパッケージしたものです。簡単に言ってしまうと、EPUBはHTMLで記述されたWebコンテンツをメタデータとともにzip圧縮したアーカイブということになります。そのパッケージを、電子書籍の読書環境であるリーディングシステムが、ページめくりなどの独自のインターフェースを持たせながら一冊の書籍として描画することになります。Appleや楽天は自社のリーディングシステムであるiBooksやKoboでEPUBフォーマットに対応しています。
グローバルな言語への対応
これまでのバージョンに比べEPUB 3は何が新しくなったのでしょうか。
EPUB 3が今回最大に進化したと言えるのが、グローバルな言語への対応でしょう。EPUB 2の時代からすでに、米国やアジアの一部地域で利用されてきたEPUBは、今回多くの言語に対応したことにより、グローバルな電子書籍フォーマットになりました。これまでEPUBは欧米左開きの文章しか表示できませんでしたが、EPUB 3ではグローバルな仕様としてより多くの文化の文書を表現できるようになりました。その結果、縦書きやルビ、圏点(傍点)などの日本国内の電子出版に欠かせない日本語組版にも対応するようになりました。
EPUBは書籍を販売する際も、EPUB書籍を閲覧するためのリーダーを開発する際も利用料などを必要としません。無料で利用できるEPUBは日本を含めて、より多くの地域と文化で誰でも使える電子書籍のフォーマットとして普及していくのではないかと思われます。
HTML5をベースにした表現力の拡張
EPUBはHTML形式のフォーマットですが、EPUB 3ではXHTML5を採用しさらに多くのWebの機能がサポートされました。
・Javascript
EPUB 2では使用すべきでないものとされていたJavascriptですが、EPUB 3からドキュメントに含めてもよいことになりました。ただし、EPUB 3用のリーディーングシステムは必ずしもスクリプトをサポートする必要はなく、異なる読書環境で同じようにスクリプトが動作するかは保証されません。
・ビデオ・オーディオ
MP3などのオーディオやビデオの再生がサポートされました。ビデオに関してはコーデックの規定がありませんが、これから多くのEPUB 3対応のリーディングシステムがWebkitをベースに開発されると予想されるため、Webkitで主流のビデオコーデックであるH.264がEPUB 3のデファクトスタンダード的コーデックになるのではないかと思います。
またオーディオについては、テキストと同期した音声の再生が「メディアオーバーレイ」として単独の仕様として策定されています。
・フォント埋め込み
WOFFとOpen Typeの埋め込みがサポートされました。ただし日本語フォントについては、権利的に埋め込みが許可されているフォントの種類はあまり多くはありません。
・固定レイアウト
EPUBはリフロードキュメントの表示が基本ですが、今年に入り異なる環境でも同じレイアウトが表示される「固定レイアウト仕様」が追加モジュールとして策定されました。
このように、EPUB 3ではHTML5をはじめ多くのWebの標準規格が採用されています。オープンフォーマットでWeb規格を仕様に採用したことから、WebkitなどのHTMLレンダリングエンジンをベースにしEPUB 3に対応した多様な電子書籍リーダーが、スマートフォンやデスクトップPCなど様々な環境で登場することが今後期待されます。
また、EPUB 3がWebの標準規格を取り入れることで、ポテンシャルとして持つ表現力はほぼブラウザーの表現力に等しくなりました。EPUBコンテンツの制作にはWeb制作の経験やノウハウを活かすことができるため、インタラクションを伴った、新しい電子書籍の雑誌やコミックなど、「本」の表現の枠組を広げる電子出版のコンテンツがWebのクリエイター達によって生み出されていくかもしれません。
EPUB 3の普及で変わるもの
日本語に対応したEPUB 3の普及によって大きな恩恵を受けるのではないかと考えられる分野のひとつが、同人誌や個人出版のようなインディペンデントな出版物です。
EPUB 3が普及することで、特定プラットフォームに依存することのない電子出版のプロセスが確立します。iBooksをはじめ、EPUBに対応したリーディングシステムは既にいくつもあり、これからEPUBに対応した多様な読書環境がさらに増えていくはずです。インターネットに自分たちの制作したコンテンツを公開し、読者に伝える仕組みを持つことができれば、既存の配信プラットフォームを介さずに、自分たちのメディアから電子書籍を読者に届けることが可能になります。
電子書籍の配信プロセスが今よりオープンな仕組みに変わっていくことで、さらに大きな意味でのコンテンツ配信のプレーヤーやルールが変わっていく可能性もあるかもしれません。
参考
◆EPUB | IDPF
→ http://idpf.org/epub
◆いいパブッ!!はじめてのEPUB 3
→ http://www.slideshare.net/lost_and_found/epub-3
◆『EPUB 3 電子書籍制作の教科書』(林拓也 著)
→ http://www.amazon.co.jp/EPUB-3-電子書籍制作の教科書-林-拓也/dp/4774152420
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◆このコラムのほかの回を読む
第1回 本の価値から電子書籍を想像する
第2回 理解をナビゲーションする電子書籍デザイン
第3回 電子書籍と読書体験のクラウド化
第4回 EPUB 3
第5回「本」だけではない電子書籍活用アイデア
第6回 ブログから電子書籍を作るには(1)
第7回 ブログから電子書籍を作るには(2) (最終回)
Posted by eしずおかコラム at 12:00