2012年10月17日
第7回 ブログから電子書籍を作るには(2)
前回のコラムでは特別なツールを使わずにEPUBファイルを作りました。EPUBはHTMLのドキュメントとメタ情報をパッケージしたファイルであるため、テキストエディターだけで作る事もできますが、実際の制作では専用のアプリケーションやサービスを利用する法が圧倒的に簡単です。今回は、ブログからEPUBを作成するのに利用できるサービスやアプリケーションを紹介します。
Webサービスを利用したEPUB作成
【 パブー 】 → http://p.booklog.jp/users/inu-goya
ブクログの運営する個人向け電子出版サービスです。
多くのブログサービスが対応しているMovable Type形式の出力データを管理画面からインポートできるので、ブログを取り込みEPUBに変換する操作は非常に簡単です。ブラウザでの閲覧や、PDFとEPUB 2(最新バージョンのEPUB 3ではありません)のパブリッシュに対応しています。
前回エディターを使って作成したブログのサンプルを、同様にパブーでも作成してみました。
パブーで制作したサンプル(パブー内サイト)
制作だけでなく、販売機能や外部ストアとの連携といった小規模電子出版のプロセスをほぼ一つのサービスで完結することができ、 操作性もよく考えられています。個人の情報の共有やコンテンツ化にフォーカスした今後の電子出版の雛形的なサービスだと思います。
デスクトップアプリケーションでの作成
【 FUSEe ベータ(フュージーベータ) 】 → http://development.fusenetwork.co.jp/
EPUB 3に対応したオーサリングソフトです。対応OSはWindowsのみですが、無料で利用する事ができます。デスクトップアプリケーションとしてEPUB 3の作成に対応した専用ツールは現状ではほぼないため、貴重なEPUB 3専用の制作アプリといえます。
デスクトップアプリケーションとして、「一太郎2012承」や「InDesign CS6」などもEPUB 3ファイルの出力に対応しています。一太郎はパブーと連携し、パブーから一太郎で作成したEPUBファイルがインポートできるようになっています。
固定レイアウトのEPUBを作成するWebサービス
【 Tigris plus 】 → http://tigris.jp
EPUB作成ツールの多くが、閲覧環境によってレイアウトの変わるリフロータイプに対応していますが、「Tigris plus」はテキストと画像のレイアウトをページのデザインとして表現することを意図した、固定レイアウト専用のEPUB 3オーサリングツールです。
文字中心のブログであればリフロータイプのEPUBが良いと思いますが、写真やイラストなどがコンテンツの中心であれば、ページを著者が意図したレイアウトで見せたいというニーズも出てくるのではないかと思います。
Tigris plusではiPadなどのタブレットのサイズに最適なグリッドレイアウトテンプレートとテキストや画像のレイアウトモジュールをコンポーネント化し、誰でもページレイアウトの電子書籍を作ることができるEPUB制作のインターフェースを提供しています。
Tigris plusで作ったEPUBサンプルは、こちら。
iPadのiBooksや、下記の「readium」などで読むことができます。
EPUB を読む
さて、今回はツールを使ったEPUBの作り方を紹介しましたが、その中で紹介したEPUBのサンプルや、このコラムを見て試しにEPUBを作ってみた方は、どのようにEPUBファイルを利用したらいいのでしょうか。
1)パソコンでEPUBを読む
【 readium 】 → http://readium.org
EPUBを管理するIDPFがEPUB 3のリファレンス実装(見本となるリーダー)として開発をサポートするツールです。WebブラウザーのChromeの拡張機能として動作します。Chrome web storeから無料のアプリをダウンロードして利用します。
【 Adobe Ditital Edition 】
→ http://www.adobe.com/products/digital-editions/download.htmexportedGraphic.pdf
Adobeが無償で公開する電子書籍ビューワーソフトです。WindowsとMac OSXに対応しています。最新のバージョンは2.0で一部日本語の縦書きに対応しているようです。
【 murasaki 】 → http://genjiapp.com/mac/murasaki/index.html#download
有料(800円)ですがMacでEPUB 3を利用するには欠かせないアプリです。日本語の縦書きや固定レイアウト表示に対応しています。Mac App Storeからダウンロードできます。
2)スマートフォンでEPUBを読む
【 iPhoneやiPadの場合 】
iPhoneやiPadでEPUBを読む場合、迷わずiBooksを利用することをお勧めします。iOS標準のリーダーで日本語独自のレイアウトにも対応しています。
【 Androidの場合 】
Androidの場合OS標準のEPUBリーダーがなく、Google playからリーダーアプリをインストールしてEPUBを利用します(端末によってはEPUBリーダーがプリインストールされていることもあるようです)。
Aldikoや、CopperReaderなどが、EPUB 3に対応した定番リーダーのようです。
参考URL一覧
◆パブー
→ http://p.booklog.jp/users/inu-goya
◆ FUSEe ベータ
→ http://development.fusenetwork.co.jp/
◆ Tigris plus
→ http://tigris.jp
◆ Readium
→ http://readium.org
◆ Adobe Ditital Edition
→ http://www.adobe.com/products/digital-editions/download.htmexportedGraphic.pdf
◆ Murasaki
→ http://genjiapp.com/mac/murasaki/index.html#download
※「電子書籍スタートガイド」 は、この第7回が最終回です。
------------------------------------------
◆このコラムのほかの回を読む
第1回 本の価値から電子書籍を想像する
第2回 理解をナビゲーションする電子書籍デザイン
第3回 電子書籍と読書体験のクラウド化
第4回 EPUB 3
第5回「本」だけではない電子書籍活用アイデア
第6回 ブログから電子書籍を作るには(1)
第7回 ブログから電子書籍を作るには(2) (最終回)
Webサービスを利用したEPUB作成
【 パブー 】 → http://p.booklog.jp/users/inu-goya
ブクログの運営する個人向け電子出版サービスです。
多くのブログサービスが対応しているMovable Type形式の出力データを管理画面からインポートできるので、ブログを取り込みEPUBに変換する操作は非常に簡単です。ブラウザでの閲覧や、PDFとEPUB 2(最新バージョンのEPUB 3ではありません)のパブリッシュに対応しています。
前回エディターを使って作成したブログのサンプルを、同様にパブーでも作成してみました。
パブーで制作したサンプル(パブー内サイト)
制作だけでなく、販売機能や外部ストアとの連携といった小規模電子出版のプロセスをほぼ一つのサービスで完結することができ、 操作性もよく考えられています。個人の情報の共有やコンテンツ化にフォーカスした今後の電子出版の雛形的なサービスだと思います。
デスクトップアプリケーションでの作成
【 FUSEe ベータ(フュージーベータ) 】 → http://development.fusenetwork.co.jp/
EPUB 3に対応したオーサリングソフトです。対応OSはWindowsのみですが、無料で利用する事ができます。デスクトップアプリケーションとしてEPUB 3の作成に対応した専用ツールは現状ではほぼないため、貴重なEPUB 3専用の制作アプリといえます。
デスクトップアプリケーションとして、「一太郎2012承」や「InDesign CS6」などもEPUB 3ファイルの出力に対応しています。一太郎はパブーと連携し、パブーから一太郎で作成したEPUBファイルがインポートできるようになっています。
固定レイアウトのEPUBを作成するWebサービス
【 Tigris plus 】 → http://tigris.jp
EPUB作成ツールの多くが、閲覧環境によってレイアウトの変わるリフロータイプに対応していますが、「Tigris plus」はテキストと画像のレイアウトをページのデザインとして表現することを意図した、固定レイアウト専用のEPUB 3オーサリングツールです。
文字中心のブログであればリフロータイプのEPUBが良いと思いますが、写真やイラストなどがコンテンツの中心であれば、ページを著者が意図したレイアウトで見せたいというニーズも出てくるのではないかと思います。
Tigris plusではiPadなどのタブレットのサイズに最適なグリッドレイアウトテンプレートとテキストや画像のレイアウトモジュールをコンポーネント化し、誰でもページレイアウトの電子書籍を作ることができるEPUB制作のインターフェースを提供しています。
Tigris plusで作ったEPUBサンプルは、こちら。
iPadのiBooksや、下記の「readium」などで読むことができます。
EPUB を読む
さて、今回はツールを使ったEPUBの作り方を紹介しましたが、その中で紹介したEPUBのサンプルや、このコラムを見て試しにEPUBを作ってみた方は、どのようにEPUBファイルを利用したらいいのでしょうか。
1)パソコンでEPUBを読む
【 readium 】 → http://readium.org
EPUBを管理するIDPFがEPUB 3のリファレンス実装(見本となるリーダー)として開発をサポートするツールです。WebブラウザーのChromeの拡張機能として動作します。Chrome web storeから無料のアプリをダウンロードして利用します。
【 Adobe Ditital Edition 】
→ http://www.adobe.com/products/digital-editions/download.htmexportedGraphic.pdf
Adobeが無償で公開する電子書籍ビューワーソフトです。WindowsとMac OSXに対応しています。最新のバージョンは2.0で一部日本語の縦書きに対応しているようです。
【 murasaki 】 → http://genjiapp.com/mac/murasaki/index.html#download
有料(800円)ですがMacでEPUB 3を利用するには欠かせないアプリです。日本語の縦書きや固定レイアウト表示に対応しています。Mac App Storeからダウンロードできます。
2)スマートフォンでEPUBを読む
【 iPhoneやiPadの場合 】
iPhoneやiPadでEPUBを読む場合、迷わずiBooksを利用することをお勧めします。iOS標準のリーダーで日本語独自のレイアウトにも対応しています。
【 Androidの場合 】
Androidの場合OS標準のEPUBリーダーがなく、Google playからリーダーアプリをインストールしてEPUBを利用します(端末によってはEPUBリーダーがプリインストールされていることもあるようです)。
Aldikoや、CopperReaderなどが、EPUB 3に対応した定番リーダーのようです。
参考URL一覧
◆パブー
→ http://p.booklog.jp/users/inu-goya
◆ FUSEe ベータ
→ http://development.fusenetwork.co.jp/
◆ Tigris plus
→ http://tigris.jp
◆ Readium
→ http://readium.org
◆ Adobe Ditital Edition
→ http://www.adobe.com/products/digital-editions/download.htmexportedGraphic.pdf
◆ Murasaki
→ http://genjiapp.com/mac/murasaki/index.html#download
※「電子書籍スタートガイド」 は、この第7回が最終回です。
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◆このコラムのほかの回を読む
第1回 本の価値から電子書籍を想像する
第2回 理解をナビゲーションする電子書籍デザイン
第3回 電子書籍と読書体験のクラウド化
第4回 EPUB 3
第5回「本」だけではない電子書籍活用アイデア
第6回 ブログから電子書籍を作るには(1)
第7回 ブログから電子書籍を作るには(2) (最終回)
Posted by eしずおかコラム at 11:00
2012年10月03日
第6回 ブログから電子書籍を作るには(1)
オープンフォーマットでかつWeb標準技術で記述されているEPUBは、パソコンやタブレット、スマートフォンなどの多くの環境で、長期的に利用できるようなフォーマットとなるだろうと期待されています。自分のブログや撮りためたデジカメの画像などをEPUB形式に書き出すことで、コストをかけず自分や家族の記録を共有したり閲覧に便利な電子書籍として利用することができます。
EPUB形式の電子書籍は、HTMLなどのコンテンツの内容となるドキュメントとその書籍に関わるメタ情報をパッケージしたファイルであるため、特別なアプリケーションがなくても誰でも作ることができます。
今回のコラムでは、特別なツールを使わずにテキストエディターでブログをEPUBに変換してみたいと思います。
EPUBの構成
EPUB 3はHTML5などのドキュメントと出版物の情報をzip圧縮し「.epub」の拡張子をつけたものです。この図は今回の操作でつくる、シンプルなEPUBの構成図です。

コンテンツ文書
EPUBコンンテンツの内容にあたるファイルは「コンテンツ文書」といいます。EPUB 3では、コンテンツ文書は主にXHTML5で記述します。
<?xml version="1.0" encoding="UTF-8" ?>
<!DOCTYPE HTML>
<html xmlns="http://www.w3.org/1999/xhtml" lang="ja" xml:lang="ja" >
<head>
<meta charset="utf-8"></meta>
<title></title>
</head>
<body>
<h1>「マーケティング・リフレーミング」</h1>
<p>
昨年からちょうど1年間程、マーケティング関連の本を数名で読みながらディスカッションするというスタイルの読書会を月に1回行っています。・・・
</p>
</body>
</html>
パッケージ文書
出版物の書誌情報やページの順序などを記述したメタ情報を記述したファイルを「パッケージ文書」と言います。パッケージ文書はXMLで記述され、「.opf」の拡張子をもちます。
今回作成するEPUBはほぼ最小の情報のみで構成していますが、一般的な電子書籍ではパッケージ文書の「metadata要素」に出版物の著者や発行元などを記述します。 またEPUBではパッケージ文書の「manifest要素」にEPUBを構成する全てのリソースのパスと一意のidを記述しなければなりません。またEPUBには通常複数のコンテンツ文書のリソースが含まれますが、これらのリソースは「spin要素」に読む順番に記述されます。
<?xml version="1.0" encoding="utf-8"?>
<package xmlns="http://www.idpf.org/2007/opf" unique-identifier="pub-id" xml:lang="ja" version="3.0">
<metadata xmlns:dc="http://purl.org/dc/elements/1.1/">
<dc:title>読書会の記録</dc:title>
<dc:language>ja</dc:language>
<dc:identifier id="pub-id">jp-dogrun-blog-20120927</dc:identifier>
<meta property="dcterms:modified">2012-09-27T12:00:00Z</meta>
</metadata>
<manifest>
<item id="TOC" href="toc.xhtml" properties="nav" media-type="application/xhtml+xml"/>
<item id="chapter1" href="chapter1.xhtml" media-type="application/xhtml+xml"/>
<item id="chapter2" href="chapter2.xhtml" media-type="application/xhtml+xml"/>
</manifest>
<spine page-progression-direction="ltr">
<itemref idref="chapter1" linear="yes"/>
<itemref idref="chapter2" linear="yes"/>
</spine>
</package>
ナビゲーション文書
ナビゲーション文書は目次などを記録したXHTML文書です。
<?xml version="1.0" encoding="utf-8"?>
<!DOCTYPE html>
<html xmlns="http://www.w3.org/1999/xhtml" xmlns:epub="http://www.idpf.org/2007/ops" lang="ja" xml:lang="ja">
<head>
<title>読書会の記録</title>
</head>
<body>
<nav xmlns:epub="http://www.idpf.org/2007/ops" epub:type="toc" id="toc">
<h1>目次</h1>
<ol>
<li><a href="chapter1.xhtml" id="chapter1">「マーケティング・リフレーミング」</a></li>
<li>
<a href="chapter2.xhtml" id="chapter2">「マーケティングリフレーミング」と共創性</a></li>
</ol>
</nav>
</body>
</html>
その他のファイル
EPUB 3には上記の出版物リソースの他に、「mimetype」と「META-INF/container.xml」が必要です。
「mimetype」は下記のようにファイルのメディアタイプが記述され、EPUBコンテナの先頭に無圧縮で配置する必要があります。
application/epub+zip
「container.xml」には前述のパッケージ文書のパスが記述されています。
<?xml version="1.0" encoding="UTF-8"?>
<container version="1.0" xmlns="urn:oasis:names:tc:opendocument:xmlns:container">
<rootfiles>
<rootfile full-path="OEBPS/content.opf" media-type="application/oebps-package+xml" />
</rootfiles>
</container>
EPUBコンテナのパッケージ
これで一通りブログをEPUBとして書き出すために必要なファイルがそろいました。このファイルをzipでアーカイブすれば良いのですが、EPUBでは「mimetype」がコンテナの先頭に無圧縮で配置されている必要があり、そのためzipコマンドを2回にわけて実行することになります。これまで作成したファイルのあるディレクトリに移動して下記コマンドを実行してください( 以下macのターミナルを使った場合の例です)。
$ zip -0xq myblog.epub mimetype
$ zip -r myblog.epub * -x mimetype
この操作でパッケージされたEPUBファイルを下記にアップロードしています。iOSのiBooksやAndroidのHimawari Readerなどで読むことができます。
こちらにアクセス→ http://dogrun.jp/epub/myblog.epub
今回はEPUBがどのように構成されているか知るために特別なツールを使わずにEPUBを作成してみましたが、ミスなく全てのドキュメントを作成するのはかなり大変な作業です。さすがに電子書籍をつくる度にこれらの文書を手書きしていたのではあまりに時間がかかりすぎるため、通常はEPUBを生成する時は何らかの専用のツールを使うことになります。
そこで次回は専用のツールを使ってEPUBをつくる方法にトライしてみたいと思います。
参考
◆いいパブッ!!- よくわかるEPUB 3
→ http://www.slideshare.net/lost_and_found/iipabu-11542571
◆EPUB3標準マニュアル(押山隆 著)
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◆このコラムのほかの回を読む
第1回 本の価値から電子書籍を想像する
第2回 理解をナビゲーションする電子書籍デザイン
第3回 電子書籍と読書体験のクラウド化
第4回 EPUB 3
第5回「本」だけではない電子書籍活用アイデア
第6回 ブログから電子書籍を作るには(1)
第7回 ブログから電子書籍を作るには(2) (最終回)
EPUB形式の電子書籍は、HTMLなどのコンテンツの内容となるドキュメントとその書籍に関わるメタ情報をパッケージしたファイルであるため、特別なアプリケーションがなくても誰でも作ることができます。
今回のコラムでは、特別なツールを使わずにテキストエディターでブログをEPUBに変換してみたいと思います。
EPUBの構成
EPUB 3はHTML5などのドキュメントと出版物の情報をzip圧縮し「.epub」の拡張子をつけたものです。この図は今回の操作でつくる、シンプルなEPUBの構成図です。

コンテンツ文書
EPUBコンンテンツの内容にあたるファイルは「コンテンツ文書」といいます。EPUB 3では、コンテンツ文書は主にXHTML5で記述します。
<?xml version="1.0" encoding="UTF-8" ?>
<!DOCTYPE HTML>
<html xmlns="http://www.w3.org/1999/xhtml" lang="ja" xml:lang="ja" >
<head>
<meta charset="utf-8"></meta>
<title></title>
</head>
<body>
<h1>「マーケティング・リフレーミング」</h1>
<p>
昨年からちょうど1年間程、マーケティング関連の本を数名で読みながらディスカッションするというスタイルの読書会を月に1回行っています。・・・
</p>
</body>
</html>
パッケージ文書
出版物の書誌情報やページの順序などを記述したメタ情報を記述したファイルを「パッケージ文書」と言います。パッケージ文書はXMLで記述され、「.opf」の拡張子をもちます。
今回作成するEPUBはほぼ最小の情報のみで構成していますが、一般的な電子書籍ではパッケージ文書の「metadata要素」に出版物の著者や発行元などを記述します。 またEPUBではパッケージ文書の「manifest要素」にEPUBを構成する全てのリソースのパスと一意のidを記述しなければなりません。またEPUBには通常複数のコンテンツ文書のリソースが含まれますが、これらのリソースは「spin要素」に読む順番に記述されます。
<?xml version="1.0" encoding="utf-8"?>
<package xmlns="http://www.idpf.org/2007/opf" unique-identifier="pub-id" xml:lang="ja" version="3.0">
<metadata xmlns:dc="http://purl.org/dc/elements/1.1/">
<dc:title>読書会の記録</dc:title>
<dc:language>ja</dc:language>
<dc:identifier id="pub-id">jp-dogrun-blog-20120927</dc:identifier>
<meta property="dcterms:modified">2012-09-27T12:00:00Z</meta>
</metadata>
<manifest>
<item id="TOC" href="toc.xhtml" properties="nav" media-type="application/xhtml+xml"/>
<item id="chapter1" href="chapter1.xhtml" media-type="application/xhtml+xml"/>
<item id="chapter2" href="chapter2.xhtml" media-type="application/xhtml+xml"/>
</manifest>
<spine page-progression-direction="ltr">
<itemref idref="chapter1" linear="yes"/>
<itemref idref="chapter2" linear="yes"/>
</spine>
</package>
ナビゲーション文書
ナビゲーション文書は目次などを記録したXHTML文書です。
<?xml version="1.0" encoding="utf-8"?>
<!DOCTYPE html>
<html xmlns="http://www.w3.org/1999/xhtml" xmlns:epub="http://www.idpf.org/2007/ops" lang="ja" xml:lang="ja">
<head>
<title>読書会の記録</title>
</head>
<body>
<nav xmlns:epub="http://www.idpf.org/2007/ops" epub:type="toc" id="toc">
<h1>目次</h1>
<ol>
<li><a href="chapter1.xhtml" id="chapter1">「マーケティング・リフレーミング」</a></li>
<li>
<a href="chapter2.xhtml" id="chapter2">「マーケティングリフレーミング」と共創性</a></li>
</ol>
</nav>
</body>
</html>
その他のファイル
EPUB 3には上記の出版物リソースの他に、「mimetype」と「META-INF/container.xml」が必要です。
「mimetype」は下記のようにファイルのメディアタイプが記述され、EPUBコンテナの先頭に無圧縮で配置する必要があります。
application/epub+zip
「container.xml」には前述のパッケージ文書のパスが記述されています。
<?xml version="1.0" encoding="UTF-8"?>
<container version="1.0" xmlns="urn:oasis:names:tc:opendocument:xmlns:container">
<rootfiles>
<rootfile full-path="OEBPS/content.opf" media-type="application/oebps-package+xml" />
</rootfiles>
</container>
EPUBコンテナのパッケージ
これで一通りブログをEPUBとして書き出すために必要なファイルがそろいました。このファイルをzipでアーカイブすれば良いのですが、EPUBでは「mimetype」がコンテナの先頭に無圧縮で配置されている必要があり、そのためzipコマンドを2回にわけて実行することになります。これまで作成したファイルのあるディレクトリに移動して下記コマンドを実行してください( 以下macのターミナルを使った場合の例です)。
$ zip -0xq myblog.epub mimetype
$ zip -r myblog.epub * -x mimetype
この操作でパッケージされたEPUBファイルを下記にアップロードしています。iOSのiBooksやAndroidのHimawari Readerなどで読むことができます。
こちらにアクセス→ http://dogrun.jp/epub/myblog.epub
今回はEPUBがどのように構成されているか知るために特別なツールを使わずにEPUBを作成してみましたが、ミスなく全てのドキュメントを作成するのはかなり大変な作業です。さすがに電子書籍をつくる度にこれらの文書を手書きしていたのではあまりに時間がかかりすぎるため、通常はEPUBを生成する時は何らかの専用のツールを使うことになります。
そこで次回は専用のツールを使ってEPUBをつくる方法にトライしてみたいと思います。
参考
◆いいパブッ!!- よくわかるEPUB 3
→ http://www.slideshare.net/lost_and_found/iipabu-11542571
◆EPUB3標準マニュアル(押山隆 著)
------------------------------------------
◆このコラムのほかの回を読む
第1回 本の価値から電子書籍を想像する
第2回 理解をナビゲーションする電子書籍デザイン
第3回 電子書籍と読書体験のクラウド化
第4回 EPUB 3
第5回「本」だけではない電子書籍活用アイデア
第6回 ブログから電子書籍を作るには(1)
第7回 ブログから電子書籍を作るには(2) (最終回)
Posted by eしずおかコラム at 12:00
2012年09月19日
第5回 「本」だけではない電子書籍活用アイデア
2010年以降、毎年のように「今年は電子書籍元年」と騒がれてきましたが、2012年もまた楽天のKoboによる国内の電子書籍サービスへの参入やYahoo!ブックストアやソニー「リーダー」のEPUB 3対応など大手サービスの動きがあり、国内の電子出版周辺ビジネスの熱は高まっているように思われます。
EPUBのような電子出版の規格や、電子書籍制作の環境、電子書籍端末といった電子書籍に関わるツールの普及の影響は、商業出版物に限ったものではありません。紙メディアの出版物としては流通が難しい小規模の個人出版物や、印刷物としてのメディアの枠には入らなかったデジタルコンテンツなど、いわゆる「本」以外の情報の配信と共有の手段にも影響しています。
メールマガジン
「夜間飛行」やインプレスの「MAGon」など、EPUBファイルを添付あるいはダウンロードさせるかたちでコンテンツ配信を始めるメールマガジンサービスが見られるようになりました。
出版物の販売額のうち、近年落ち込み幅の大きい分野がコンビニやキオスクなどでの雑誌販売です。コンビニで雑誌を購入する主な動機は、時間をつぶすこと。しかし、読者のネットや携帯電話の利用時間が増えたことが、販売減少の競合的な一因になっていると言われています。
短いコラムなどの雑誌的なコンテンツを、これまで競合的な存在だったネットと携帯電話をターゲットとしたメールマガジンで再生できるかどうか、メールマガジンの試みの行く先は非常に興味深いものがあります。
メルマガのような定期刊行物としてのコンテンツ販売は、利益を確保し難い小額のコンテンツ販売が成功し得る貴重なモデルのように思われます。リーディングシステムやレイアウトなどスマートフォンへの最適化が必要ですが、今後多くのコンテンツ配信事業が定期購読(サブスクリプション)モデルを採用していくことが予想されます。
Podcast
Podcastと言えば通常ラジオのようなオーディオのコンテンツの配信を思い浮かべますが、iTunesでは音声ファイルや動画ファイルの他にPDFとEPUBのドキュメントフォーマットをサポートしているため、雑誌のようなコンテンツを定期的に配信する手段としてPodcastを利用することができます。iTunesに登録したEPUBのPodcastは、iPhoneではiBooksに同期され読む事ができます。
iOSでは定期購読のプラットフォームにNewsstand機能があり、Podcastはレガシーな技術と見られる傾向もあるようです。しかし、アップルがiTunes Uのような教育用コンテンツ配信にPodcastを利用しているように、多様な環境に対応したコンテンツを比較的安価に配信する手段としてPodcastの価値は高く、また個人が作れるメディアをiTunesに番組としてアップできるという効果も大きいと思います。
カタログの電子書籍化
これまでもWebサイトからPDFで配布されていたカタログがあったように、カタログやパンフレットの電子化は今に始まったことではありません。
余剰の出ることが前提のような印刷物のカタログやパンフレットですが、デジタル化することにより、無駄な印刷物をある程度減らす効果が期待できます。これまでのカタログ電子化の目的としては、電子化して届けられる相手には電子化したコンテンツを配布し、印刷とダイレクトメールなどに掛かるコストを下げることが目的だったのではないかと思います。
タブレット端末やパソコンに対応した電子書籍リーダーが普及し、複雑なレイアウトやスクリプトを電子書籍で実現できるようになると、導線やインタラクションが緻密にデザインされたカタログが電子書籍で実現できることになります。
電子書籍化したカタログがこれから目指すのは、機能性をもった電子カタログです。機能性をもったカタログでは、コンテンツと読者がインタラクションし読者に能動的にカタログ中のコンテンツを探求してもらい、必要があればインターネットにアクセスしゴールとしてWebサイトでネットショッピングやリアルタイムな情報を利用してもらいます。
読者と会話し、読者にあわせて表示内容をレイアウトするような機能的なカタログが、電子書籍の普及により現実的にイメージできるようになるのではないかと思います。
電子書籍活用の課題
1)配信サービスのコミュニケーション機能
メルマガにしても電子カタログにしても、コンテンツをどのように届けて読んでもらうかはサービス運営上、常に重要なテーマになります。読者にメールアドレスなどを登録してもらうこと自体それなりのコストがかかり、そこをゴールと思ってしまいがちですが、ただ更新情報をプッシュするだけの配信サービスでは携帯に届く膨大な情報に埋もれてしまうことを考慮する必要があります。コンテンツ配信サービスでは、コンテンツを継続して読む動機がサービスの基本的な価値としてデザインされている必要があります。インターネットをメディアとしてコンテンツ配信サービスを運営する以上、コンテンツにも何らかのコミュニケーション的な目的と機能が備わっている必要があるのではないかと思います。
2)スマートフォン対応
紙メディアの置き換えからスタートせざるを得ない電子出版物は、判型の大きく変わらない(それでもそのままでは最適なレイアウトとは言えないのですが)タブレットでの利用が読者にとって読みやすいのではないかと思います。最近、7インチタブレットの「Nexus 7」を使っているのですが、大きさ・重さ・見やすさなど、ハードウェア的にはほぼベストな読書環境なのではないかと感じています。
ただし電子書籍化したコンテンツが普及するためには、タブレットで読みやすいコンテンツから、より利用者の多いスマートフォンでの読みやすさへの最適化を進める必要があります。タブレットに比べると、スマートフォンは表示できる文字数も少なく、画像も小さく、既存のコンテンツを利用するにしても、あまり読みやすい環境ではありません。スマートフォンに最適化したコンテンツは、印刷物の単純なデジタル化にとどまらない、携帯小説のような新しいジャンルのコンテンツになるかもしれません。
参考
◆夜間飛行
→ http://yakan-hiko.com/index.php
◆インプレス MAGon
→ http://magon.impress.co.jp
◆アップル - Podcastを制作する
→ http://www.apple.com/jp/itunes/podcasts/specs.html
◆週刊イーブック・ストラテジー
→ http://itunes.apple.com/jp/podcast/zhou-kanibukku-sutorateji/id407475766
◆OnDeck
→ http://itunes.apple.com/jp/podcast/ondeck-dian-zi-chu-banbijinesuno/id426359619
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◆このコラムのほかの回を読む
第1回 本の価値から電子書籍を想像する
第2回 理解をナビゲーションする電子書籍デザイン
第3回 電子書籍と読書体験のクラウド化
第4回 EPUB 3
第5回「本」だけではない電子書籍活用アイデア
第6回 ブログから電子書籍を作るには(1)
第7回 ブログから電子書籍を作るには(2) (最終回)
EPUBのような電子出版の規格や、電子書籍制作の環境、電子書籍端末といった電子書籍に関わるツールの普及の影響は、商業出版物に限ったものではありません。紙メディアの出版物としては流通が難しい小規模の個人出版物や、印刷物としてのメディアの枠には入らなかったデジタルコンテンツなど、いわゆる「本」以外の情報の配信と共有の手段にも影響しています。
メールマガジン
「夜間飛行」やインプレスの「MAGon」など、EPUBファイルを添付あるいはダウンロードさせるかたちでコンテンツ配信を始めるメールマガジンサービスが見られるようになりました。
出版物の販売額のうち、近年落ち込み幅の大きい分野がコンビニやキオスクなどでの雑誌販売です。コンビニで雑誌を購入する主な動機は、時間をつぶすこと。しかし、読者のネットや携帯電話の利用時間が増えたことが、販売減少の競合的な一因になっていると言われています。
短いコラムなどの雑誌的なコンテンツを、これまで競合的な存在だったネットと携帯電話をターゲットとしたメールマガジンで再生できるかどうか、メールマガジンの試みの行く先は非常に興味深いものがあります。
メルマガのような定期刊行物としてのコンテンツ販売は、利益を確保し難い小額のコンテンツ販売が成功し得る貴重なモデルのように思われます。リーディングシステムやレイアウトなどスマートフォンへの最適化が必要ですが、今後多くのコンテンツ配信事業が定期購読(サブスクリプション)モデルを採用していくことが予想されます。
Podcast
Podcastと言えば通常ラジオのようなオーディオのコンテンツの配信を思い浮かべますが、iTunesでは音声ファイルや動画ファイルの他にPDFとEPUBのドキュメントフォーマットをサポートしているため、雑誌のようなコンテンツを定期的に配信する手段としてPodcastを利用することができます。iTunesに登録したEPUBのPodcastは、iPhoneではiBooksに同期され読む事ができます。
iOSでは定期購読のプラットフォームにNewsstand機能があり、Podcastはレガシーな技術と見られる傾向もあるようです。しかし、アップルがiTunes Uのような教育用コンテンツ配信にPodcastを利用しているように、多様な環境に対応したコンテンツを比較的安価に配信する手段としてPodcastの価値は高く、また個人が作れるメディアをiTunesに番組としてアップできるという効果も大きいと思います。
カタログの電子書籍化
これまでもWebサイトからPDFで配布されていたカタログがあったように、カタログやパンフレットの電子化は今に始まったことではありません。
余剰の出ることが前提のような印刷物のカタログやパンフレットですが、デジタル化することにより、無駄な印刷物をある程度減らす効果が期待できます。これまでのカタログ電子化の目的としては、電子化して届けられる相手には電子化したコンテンツを配布し、印刷とダイレクトメールなどに掛かるコストを下げることが目的だったのではないかと思います。
タブレット端末やパソコンに対応した電子書籍リーダーが普及し、複雑なレイアウトやスクリプトを電子書籍で実現できるようになると、導線やインタラクションが緻密にデザインされたカタログが電子書籍で実現できることになります。
電子書籍化したカタログがこれから目指すのは、機能性をもった電子カタログです。機能性をもったカタログでは、コンテンツと読者がインタラクションし読者に能動的にカタログ中のコンテンツを探求してもらい、必要があればインターネットにアクセスしゴールとしてWebサイトでネットショッピングやリアルタイムな情報を利用してもらいます。
読者と会話し、読者にあわせて表示内容をレイアウトするような機能的なカタログが、電子書籍の普及により現実的にイメージできるようになるのではないかと思います。
電子書籍活用の課題
1)配信サービスのコミュニケーション機能
メルマガにしても電子カタログにしても、コンテンツをどのように届けて読んでもらうかはサービス運営上、常に重要なテーマになります。読者にメールアドレスなどを登録してもらうこと自体それなりのコストがかかり、そこをゴールと思ってしまいがちですが、ただ更新情報をプッシュするだけの配信サービスでは携帯に届く膨大な情報に埋もれてしまうことを考慮する必要があります。コンテンツ配信サービスでは、コンテンツを継続して読む動機がサービスの基本的な価値としてデザインされている必要があります。インターネットをメディアとしてコンテンツ配信サービスを運営する以上、コンテンツにも何らかのコミュニケーション的な目的と機能が備わっている必要があるのではないかと思います。
2)スマートフォン対応
紙メディアの置き換えからスタートせざるを得ない電子出版物は、判型の大きく変わらない(それでもそのままでは最適なレイアウトとは言えないのですが)タブレットでの利用が読者にとって読みやすいのではないかと思います。最近、7インチタブレットの「Nexus 7」を使っているのですが、大きさ・重さ・見やすさなど、ハードウェア的にはほぼベストな読書環境なのではないかと感じています。
ただし電子書籍化したコンテンツが普及するためには、タブレットで読みやすいコンテンツから、より利用者の多いスマートフォンでの読みやすさへの最適化を進める必要があります。タブレットに比べると、スマートフォンは表示できる文字数も少なく、画像も小さく、既存のコンテンツを利用するにしても、あまり読みやすい環境ではありません。スマートフォンに最適化したコンテンツは、印刷物の単純なデジタル化にとどまらない、携帯小説のような新しいジャンルのコンテンツになるかもしれません。
参考
◆夜間飛行
→ http://yakan-hiko.com/index.php
◆インプレス MAGon
→ http://magon.impress.co.jp
◆アップル - Podcastを制作する
→ http://www.apple.com/jp/itunes/podcasts/specs.html
◆週刊イーブック・ストラテジー
→ http://itunes.apple.com/jp/podcast/zhou-kanibukku-sutorateji/id407475766
◆OnDeck
→ http://itunes.apple.com/jp/podcast/ondeck-dian-zi-chu-banbijinesuno/id426359619
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◆このコラムのほかの回を読む
第1回 本の価値から電子書籍を想像する
第2回 理解をナビゲーションする電子書籍デザイン
第3回 電子書籍と読書体験のクラウド化
第4回 EPUB 3
第5回「本」だけではない電子書籍活用アイデア
第6回 ブログから電子書籍を作るには(1)
第7回 ブログから電子書籍を作るには(2) (最終回)
Posted by eしずおかコラム at 12:00
2012年09月05日
第4回 EPUB 3
EPUBって何?
昨年10月、今後の電子出版にとって非常に大きな発表がありました。
電子出版フォーマットEPUB(イーパブ) 3の勧告(Recommended Specification)が発表され、これによりEPUBの最新バージョンの仕様が確定しました。
EPUBの仕様を策定した標準化団体であるIDPF(International Degital Publishing Forum)によると、EPUB は「Web標準をベースにした電子出版とドキュメントの配布と交換のための標準フォーマット」と説明されています。
EPUB 3の実体は、XHTML5や画像などのコンテンツ文書と構成ファイルやページの順番を記述したメタデータのパッケージ文書をEPUBコンテナにパッケージしたものです。簡単に言ってしまうと、EPUBはHTMLで記述されたWebコンテンツをメタデータとともにzip圧縮したアーカイブということになります。そのパッケージを、電子書籍の読書環境であるリーディングシステムが、ページめくりなどの独自のインターフェースを持たせながら一冊の書籍として描画することになります。Appleや楽天は自社のリーディングシステムであるiBooksやKoboでEPUBフォーマットに対応しています。
グローバルな言語への対応
これまでのバージョンに比べEPUB 3は何が新しくなったのでしょうか。
EPUB 3が今回最大に進化したと言えるのが、グローバルな言語への対応でしょう。EPUB 2の時代からすでに、米国やアジアの一部地域で利用されてきたEPUBは、今回多くの言語に対応したことにより、グローバルな電子書籍フォーマットになりました。これまでEPUBは欧米左開きの文章しか表示できませんでしたが、EPUB 3ではグローバルな仕様としてより多くの文化の文書を表現できるようになりました。その結果、縦書きやルビ、圏点(傍点)などの日本国内の電子出版に欠かせない日本語組版にも対応するようになりました。
EPUBは書籍を販売する際も、EPUB書籍を閲覧するためのリーダーを開発する際も利用料などを必要としません。無料で利用できるEPUBは日本を含めて、より多くの地域と文化で誰でも使える電子書籍のフォーマットとして普及していくのではないかと思われます。
HTML5をベースにした表現力の拡張
EPUBはHTML形式のフォーマットですが、EPUB 3ではXHTML5を採用しさらに多くのWebの機能がサポートされました。
・Javascript
EPUB 2では使用すべきでないものとされていたJavascriptですが、EPUB 3からドキュメントに含めてもよいことになりました。ただし、EPUB 3用のリーディーングシステムは必ずしもスクリプトをサポートする必要はなく、異なる読書環境で同じようにスクリプトが動作するかは保証されません。
・ビデオ・オーディオ
MP3などのオーディオやビデオの再生がサポートされました。ビデオに関してはコーデックの規定がありませんが、これから多くのEPUB 3対応のリーディングシステムがWebkitをベースに開発されると予想されるため、Webkitで主流のビデオコーデックであるH.264がEPUB 3のデファクトスタンダード的コーデックになるのではないかと思います。
またオーディオについては、テキストと同期した音声の再生が「メディアオーバーレイ」として単独の仕様として策定されています。
・フォント埋め込み
WOFFとOpen Typeの埋め込みがサポートされました。ただし日本語フォントについては、権利的に埋め込みが許可されているフォントの種類はあまり多くはありません。
・固定レイアウト
EPUBはリフロードキュメントの表示が基本ですが、今年に入り異なる環境でも同じレイアウトが表示される「固定レイアウト仕様」が追加モジュールとして策定されました。
このように、EPUB 3ではHTML5をはじめ多くのWebの標準規格が採用されています。オープンフォーマットでWeb規格を仕様に採用したことから、WebkitなどのHTMLレンダリングエンジンをベースにしEPUB 3に対応した多様な電子書籍リーダーが、スマートフォンやデスクトップPCなど様々な環境で登場することが今後期待されます。
また、EPUB 3がWebの標準規格を取り入れることで、ポテンシャルとして持つ表現力はほぼブラウザーの表現力に等しくなりました。EPUBコンテンツの制作にはWeb制作の経験やノウハウを活かすことができるため、インタラクションを伴った、新しい電子書籍の雑誌やコミックなど、「本」の表現の枠組を広げる電子出版のコンテンツがWebのクリエイター達によって生み出されていくかもしれません。
EPUB 3の普及で変わるもの
日本語に対応したEPUB 3の普及によって大きな恩恵を受けるのではないかと考えられる分野のひとつが、同人誌や個人出版のようなインディペンデントな出版物です。
EPUB 3が普及することで、特定プラットフォームに依存することのない電子出版のプロセスが確立します。iBooksをはじめ、EPUBに対応したリーディングシステムは既にいくつもあり、これからEPUBに対応した多様な読書環境がさらに増えていくはずです。インターネットに自分たちの制作したコンテンツを公開し、読者に伝える仕組みを持つことができれば、既存の配信プラットフォームを介さずに、自分たちのメディアから電子書籍を読者に届けることが可能になります。
電子書籍の配信プロセスが今よりオープンな仕組みに変わっていくことで、さらに大きな意味でのコンテンツ配信のプレーヤーやルールが変わっていく可能性もあるかもしれません。
参考
◆EPUB | IDPF
→ http://idpf.org/epub
◆いいパブッ!!はじめてのEPUB 3
→ http://www.slideshare.net/lost_and_found/epub-3
◆『EPUB 3 電子書籍制作の教科書』(林拓也 著)
→ http://www.amazon.co.jp/EPUB-3-電子書籍制作の教科書-林-拓也/dp/4774152420
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◆このコラムのほかの回を読む
第1回 本の価値から電子書籍を想像する
第2回 理解をナビゲーションする電子書籍デザイン
第3回 電子書籍と読書体験のクラウド化
第4回 EPUB 3
第5回「本」だけではない電子書籍活用アイデア
第6回 ブログから電子書籍を作るには(1)
第7回 ブログから電子書籍を作るには(2) (最終回)
昨年10月、今後の電子出版にとって非常に大きな発表がありました。
電子出版フォーマットEPUB(イーパブ) 3の勧告(Recommended Specification)が発表され、これによりEPUBの最新バージョンの仕様が確定しました。
EPUBの仕様を策定した標準化団体であるIDPF(International Degital Publishing Forum)によると、EPUB は「Web標準をベースにした電子出版とドキュメントの配布と交換のための標準フォーマット」と説明されています。
EPUB 3の実体は、XHTML5や画像などのコンテンツ文書と構成ファイルやページの順番を記述したメタデータのパッケージ文書をEPUBコンテナにパッケージしたものです。簡単に言ってしまうと、EPUBはHTMLで記述されたWebコンテンツをメタデータとともにzip圧縮したアーカイブということになります。そのパッケージを、電子書籍の読書環境であるリーディングシステムが、ページめくりなどの独自のインターフェースを持たせながら一冊の書籍として描画することになります。Appleや楽天は自社のリーディングシステムであるiBooksやKoboでEPUBフォーマットに対応しています。
グローバルな言語への対応
これまでのバージョンに比べEPUB 3は何が新しくなったのでしょうか。
EPUB 3が今回最大に進化したと言えるのが、グローバルな言語への対応でしょう。EPUB 2の時代からすでに、米国やアジアの一部地域で利用されてきたEPUBは、今回多くの言語に対応したことにより、グローバルな電子書籍フォーマットになりました。これまでEPUBは欧米左開きの文章しか表示できませんでしたが、EPUB 3ではグローバルな仕様としてより多くの文化の文書を表現できるようになりました。その結果、縦書きやルビ、圏点(傍点)などの日本国内の電子出版に欠かせない日本語組版にも対応するようになりました。
EPUBは書籍を販売する際も、EPUB書籍を閲覧するためのリーダーを開発する際も利用料などを必要としません。無料で利用できるEPUBは日本を含めて、より多くの地域と文化で誰でも使える電子書籍のフォーマットとして普及していくのではないかと思われます。
HTML5をベースにした表現力の拡張
EPUBはHTML形式のフォーマットですが、EPUB 3ではXHTML5を採用しさらに多くのWebの機能がサポートされました。
・Javascript
EPUB 2では使用すべきでないものとされていたJavascriptですが、EPUB 3からドキュメントに含めてもよいことになりました。ただし、EPUB 3用のリーディーングシステムは必ずしもスクリプトをサポートする必要はなく、異なる読書環境で同じようにスクリプトが動作するかは保証されません。
・ビデオ・オーディオ
MP3などのオーディオやビデオの再生がサポートされました。ビデオに関してはコーデックの規定がありませんが、これから多くのEPUB 3対応のリーディングシステムがWebkitをベースに開発されると予想されるため、Webkitで主流のビデオコーデックであるH.264がEPUB 3のデファクトスタンダード的コーデックになるのではないかと思います。
またオーディオについては、テキストと同期した音声の再生が「メディアオーバーレイ」として単独の仕様として策定されています。
・フォント埋め込み
WOFFとOpen Typeの埋め込みがサポートされました。ただし日本語フォントについては、権利的に埋め込みが許可されているフォントの種類はあまり多くはありません。
・固定レイアウト
EPUBはリフロードキュメントの表示が基本ですが、今年に入り異なる環境でも同じレイアウトが表示される「固定レイアウト仕様」が追加モジュールとして策定されました。
このように、EPUB 3ではHTML5をはじめ多くのWebの標準規格が採用されています。オープンフォーマットでWeb規格を仕様に採用したことから、WebkitなどのHTMLレンダリングエンジンをベースにしEPUB 3に対応した多様な電子書籍リーダーが、スマートフォンやデスクトップPCなど様々な環境で登場することが今後期待されます。
また、EPUB 3がWebの標準規格を取り入れることで、ポテンシャルとして持つ表現力はほぼブラウザーの表現力に等しくなりました。EPUBコンテンツの制作にはWeb制作の経験やノウハウを活かすことができるため、インタラクションを伴った、新しい電子書籍の雑誌やコミックなど、「本」の表現の枠組を広げる電子出版のコンテンツがWebのクリエイター達によって生み出されていくかもしれません。
EPUB 3の普及で変わるもの
日本語に対応したEPUB 3の普及によって大きな恩恵を受けるのではないかと考えられる分野のひとつが、同人誌や個人出版のようなインディペンデントな出版物です。
EPUB 3が普及することで、特定プラットフォームに依存することのない電子出版のプロセスが確立します。iBooksをはじめ、EPUBに対応したリーディングシステムは既にいくつもあり、これからEPUBに対応した多様な読書環境がさらに増えていくはずです。インターネットに自分たちの制作したコンテンツを公開し、読者に伝える仕組みを持つことができれば、既存の配信プラットフォームを介さずに、自分たちのメディアから電子書籍を読者に届けることが可能になります。
電子書籍の配信プロセスが今よりオープンな仕組みに変わっていくことで、さらに大きな意味でのコンテンツ配信のプレーヤーやルールが変わっていく可能性もあるかもしれません。
参考
◆EPUB | IDPF
→ http://idpf.org/epub
◆いいパブッ!!はじめてのEPUB 3
→ http://www.slideshare.net/lost_and_found/epub-3
◆『EPUB 3 電子書籍制作の教科書』(林拓也 著)
→ http://www.amazon.co.jp/EPUB-3-電子書籍制作の教科書-林-拓也/dp/4774152420
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第1回 本の価値から電子書籍を想像する
第2回 理解をナビゲーションする電子書籍デザイン
第3回 電子書籍と読書体験のクラウド化
第4回 EPUB 3
第5回「本」だけではない電子書籍活用アイデア
第6回 ブログから電子書籍を作るには(1)
第7回 ブログから電子書籍を作るには(2) (最終回)
Posted by eしずおかコラム at 12:00
2012年08月22日
第3回 電子書籍と読書体験のクラウド化
電子書籍が紙の本より優れている点の一つに、電子書籍のインターネットサービスとの親和性の高さをあげることができます。電子書籍の読書環境は、タブレットにしろPCでの閲覧にしろ、ほぼ何らかの形でインターネットへのアクセスが可能です。また電子書籍の読書環境は、基本的にブラウザーでありコンピューターの機能の一部であるということもあり、Webサービスを利用するアプリケーションとして機能させることができます。
読書環境がインターネットのサービスと連携し、書籍をアプリケーション化することで、オンラインサービスを利用して様々な情報の共有が進み、従来の読書体験の枠を拡張できる可能性が見えてきます。
個人の体験やリソースがオンライン上で共有されて、コラボレーションの基盤となっていくことを「クラウド化」と呼ぶようになってきました。インターネットで「クラウド化」された電子書籍は私たちの読書をどのように変化させるのでしょうか。
共有化された読書体験
オンラインで個人が体験を共有する目的は大きく2つ考えられます。一つは生活において有益な情報を入手し、また有益な情報を人に伝えるためであり、もう一つがコミュニケーションによって他者との関係性を築くためです。
自分との関係性の強い人(仕事、立場、住んでいる場所など)や趣味の近い人が良いと思うもの・勧めるものは、自分にとっても有益な情報である可能性が、Web上のランダムな情報に比べ高いはずです。面白い本を探したり、あるいは人に面白い本を教える為に、本棚や書評をクラウド化することは、効果的に自分達にあった本の情報を収集する有効な手段になります。
一方、SNSなどで相手の体験を承認することは人との関係性を確認しアップデートする意味もあります。また体験の共有化によって自分がどのような人物であるのかを(あると思われたいかを含めて)発信することもできます。ストーリーや批評・論評などがパッケージされた本は、自分の共感や信じる価値観を、リアクションとして他者に伝えやすい題材です。クラウド化された書評やコメントは自分の考え方や評価軸、または単純に好き・嫌いを伝えやすく、かつSNS上で自分と関わりを持つ人たちに反応してもらいやすいコンテンツです。
本にコメントやブックマーク、マーカーを付加し、オンラインで共有していくような読書は「ソーシャルリーディング」と呼ばれます。ソーシャルリーディング機能を持った電子書籍関連サービスはすでに数多くリリースされています。
AmazonのKindleには文中にコメントをつけてマーキング(ハイライト)する機能があります。ハイライトはAmazonのサーバーに蓄積され、書籍中多くのユーザーが気になった箇所が「ポピューラーハイライト」として共有されます。楽天が買収したKoboもページに感想を投稿でき他の読者の投稿した感想を読むことができる「Kobo Pulse」という機能をリリースしています。国内ではQlippyがソーシャルリーディングのプラットフォームをサービスとして提供しています。
ソーシャルリーディング機能は国内でも、電子書籍普及の大きな売りとなっていくはずです。このような機能が新しい本を知るチャンネルを増やし、オンライン上のコミュニケーションと相互作用的に本を読む動機を向上していくのではないかと思います。
クラウド化による読書の合理化
オンラインの各種サービスと連携することで電子書籍をコミュニケーション的利用にとどまらず論文の査読のような思考作業のための、読書と理解のためのツールとすることも可能になっていくでしょう。
自分の例になりますが、真剣に本を読むときは、本に付箋をはり、ラインを引き、書き込みをし、パソコンのテキストエディターにメモを取るというスタイルで読むことが多いです。読むことと考えることを同時に繰り返しおこない、正確に本の内容を評価しながら読む読書スタイルを「クリティカル・リーディング」と言いますが、Webサービスとの連携・アプリケーション化などの特徴をもった電子書籍は、このクリティカル・リーディングを強力にサポートしています。電子書籍端末内で、本を読むことはもちろん、メモをとったりブログやSNSなどに自分の考えをアウトプットする作業まで完結させることも可能になるはずです。
米国などでは「ブッククラブ」と呼ばれる、本を読んで意見を交換しあう読書会が盛んに開かれています。本を読み、適切な疑問を持ちそれを他者に伝えるというブッククラブの読書スタイルは、子供に限らず私たち全ての読者のリーディングリテラシー(読解力)やロジカルシンキング(論理的思考力)の向上に有効です。ブッククラブは日本ではそれほど流行っていませんが、電子書籍環境から直接本に関する意見を交換ができるようなオンラインのサービスが国内でも運営されるようになれば、多くの人に有益な新しい読書スタイルが実現できるのではないかと思います。
クラウド化した読書と共創的出版
電子書籍の執筆や編集は、オンライン上のツールを用い、個人的な書籍であればほぼブログのように編集し公開することが可能になっていきます。 出版コストがさほどかからない電子書籍は、ターゲットの限定されたごく少数の人たちを対象にした出版でも成立していく可能性があります。 読者との立場が極めて近い著者が本を執筆し、オンライン上で活発に意見を共有しあう読者と密接な関係を作って行くことで、クラウド化した読書は新しい本や新しい著者を生み出す基盤にもなって行くのではないでしょうか。
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第1回 本の価値から電子書籍を想像する
第2回 理解をナビゲーションする電子書籍デザイン
第3回 電子書籍と読書体験のクラウド化
第4回 EPUB 3
第5回「本」だけではない電子書籍活用アイデア
第6回 ブログから電子書籍を作るには(1)
第7回 ブログから電子書籍を作るには(2) (最終回)
読書環境がインターネットのサービスと連携し、書籍をアプリケーション化することで、オンラインサービスを利用して様々な情報の共有が進み、従来の読書体験の枠を拡張できる可能性が見えてきます。
個人の体験やリソースがオンライン上で共有されて、コラボレーションの基盤となっていくことを「クラウド化」と呼ぶようになってきました。インターネットで「クラウド化」された電子書籍は私たちの読書をどのように変化させるのでしょうか。
共有化された読書体験
オンラインで個人が体験を共有する目的は大きく2つ考えられます。一つは生活において有益な情報を入手し、また有益な情報を人に伝えるためであり、もう一つがコミュニケーションによって他者との関係性を築くためです。
自分との関係性の強い人(仕事、立場、住んでいる場所など)や趣味の近い人が良いと思うもの・勧めるものは、自分にとっても有益な情報である可能性が、Web上のランダムな情報に比べ高いはずです。面白い本を探したり、あるいは人に面白い本を教える為に、本棚や書評をクラウド化することは、効果的に自分達にあった本の情報を収集する有効な手段になります。
一方、SNSなどで相手の体験を承認することは人との関係性を確認しアップデートする意味もあります。また体験の共有化によって自分がどのような人物であるのかを(あると思われたいかを含めて)発信することもできます。ストーリーや批評・論評などがパッケージされた本は、自分の共感や信じる価値観を、リアクションとして他者に伝えやすい題材です。クラウド化された書評やコメントは自分の考え方や評価軸、または単純に好き・嫌いを伝えやすく、かつSNS上で自分と関わりを持つ人たちに反応してもらいやすいコンテンツです。
本にコメントやブックマーク、マーカーを付加し、オンラインで共有していくような読書は「ソーシャルリーディング」と呼ばれます。ソーシャルリーディング機能を持った電子書籍関連サービスはすでに数多くリリースされています。
AmazonのKindleには文中にコメントをつけてマーキング(ハイライト)する機能があります。ハイライトはAmazonのサーバーに蓄積され、書籍中多くのユーザーが気になった箇所が「ポピューラーハイライト」として共有されます。楽天が買収したKoboもページに感想を投稿でき他の読者の投稿した感想を読むことができる「Kobo Pulse」という機能をリリースしています。国内ではQlippyがソーシャルリーディングのプラットフォームをサービスとして提供しています。
ソーシャルリーディング機能は国内でも、電子書籍普及の大きな売りとなっていくはずです。このような機能が新しい本を知るチャンネルを増やし、オンライン上のコミュニケーションと相互作用的に本を読む動機を向上していくのではないかと思います。
クラウド化による読書の合理化
オンラインの各種サービスと連携することで電子書籍をコミュニケーション的利用にとどまらず論文の査読のような思考作業のための、読書と理解のためのツールとすることも可能になっていくでしょう。
自分の例になりますが、真剣に本を読むときは、本に付箋をはり、ラインを引き、書き込みをし、パソコンのテキストエディターにメモを取るというスタイルで読むことが多いです。読むことと考えることを同時に繰り返しおこない、正確に本の内容を評価しながら読む読書スタイルを「クリティカル・リーディング」と言いますが、Webサービスとの連携・アプリケーション化などの特徴をもった電子書籍は、このクリティカル・リーディングを強力にサポートしています。電子書籍端末内で、本を読むことはもちろん、メモをとったりブログやSNSなどに自分の考えをアウトプットする作業まで完結させることも可能になるはずです。
米国などでは「ブッククラブ」と呼ばれる、本を読んで意見を交換しあう読書会が盛んに開かれています。本を読み、適切な疑問を持ちそれを他者に伝えるというブッククラブの読書スタイルは、子供に限らず私たち全ての読者のリーディングリテラシー(読解力)やロジカルシンキング(論理的思考力)の向上に有効です。ブッククラブは日本ではそれほど流行っていませんが、電子書籍環境から直接本に関する意見を交換ができるようなオンラインのサービスが国内でも運営されるようになれば、多くの人に有益な新しい読書スタイルが実現できるのではないかと思います。
クラウド化した読書と共創的出版
電子書籍の執筆や編集は、オンライン上のツールを用い、個人的な書籍であればほぼブログのように編集し公開することが可能になっていきます。 出版コストがさほどかからない電子書籍は、ターゲットの限定されたごく少数の人たちを対象にした出版でも成立していく可能性があります。 読者との立場が極めて近い著者が本を執筆し、オンライン上で活発に意見を共有しあう読者と密接な関係を作って行くことで、クラウド化した読書は新しい本や新しい著者を生み出す基盤にもなって行くのではないでしょうか。
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第1回 本の価値から電子書籍を想像する
第2回 理解をナビゲーションする電子書籍デザイン
第3回 電子書籍と読書体験のクラウド化
第4回 EPUB 3
第5回「本」だけではない電子書籍活用アイデア
第6回 ブログから電子書籍を作るには(1)
第7回 ブログから電子書籍を作るには(2) (最終回)
Posted by eしずおかコラム at 12:00
2012年08月08日
第2回 理解をナビゲーションする電子書籍デザイン
メディアとしての「本」の本らしさの一つは、誰もが同じように筆者が意図した順序で情報を再現できることにあります。
本の情報は、基本的にページにそって順番に再生・体験することが前提。読者も、本を読むときはまず最初のページから順番に読むでしょう。
論文、技術書、ビジネス書など内容にロジックが問われる本は、それぞれの章同士の有機的なつながりを順番に読み解くことが次に続く章の理解の前提になり、さらには本の結語を理解するための前提になります。小説などでも、主人公の体験を、主人公が体験した時間を再現するように段々と読み進めることで、共感や物語への理解が生まれるはずです。
Webサイトのハイバーリンク(ページとページを結び付け、クリックすると別のページに移動する方法)のようにユーザーの自由な意思で選択的にコンテンツを体験するメディア(ユーザーインターフェース)では、本で論文や小説を読んだときのような深い理解や共感を得ることは難しいかもしれません。誰かに深く理解してもらえるように情報を伝えるという意図がある場合、「本」がやはり、他と比較して最も適したメディアだといえるでしょう。
電子書籍が単なる情報の書かれたページの集まりであるだけではなく、「本」であるために必要な課題の一つが、読者に対してページ順に読ませたり、コンテンツの持つ情報を最大に理解させたりするために、電子書籍独自のデザインルールをどのように実現するかということです。
電子書籍のページネーション
本の連続性のことを「ページネーション」と呼ぶことがあります。
ページネーションという言葉は使用される範囲が広いのですが(Webの世界ではページ間の移動のユーザーインターフェースをページネーションと呼ぶこともあります)、印刷物にしろ電子書籍にしろ「本」全般のページネーションを考えた場合、「ページと力」(鈴木一誌 著)のまえがきで解説されている以下のような定義が参考になるのではないかと思います。
電子書籍は、パソコンやタブレットの画面にテキストや画像(そしてさらに動画などのリッチコンテンツ)を集めて「本」としての体裁を与えたものです。 一つのページを見ればWebページの要素とあまり変わりなく、またWebページのようにハイパーリンクを埋め込んでリンクから別のページを移動することも可能です。電子書籍を「本」のように連続性のある情報として体験してもらうには、「この方向に読み進める」という好奇心のベクトルをデザインやユーザーインターフェースとして画面に与える必要があります。
著者が記した情報に対する理解を深められるメディアであることが「本」の大切な価値です。理解を深めるナビゲーションのために、電子書籍のデザインやインターフェースにはページの連続性を生じさせるページネーションのルールが必要です。
画面上に実現するページネーション
電子書籍の画面にページネーションを実現するデザイン要素は、いったいどんなものになるのでしょうか?
電子書籍のページ構成には「リフロー」と「固定レイアウト」の二つのタイプのレイアウトがあります。
読書環境ごとに文字サイズや一ページの文字数を最適化し、端末ごとに異なるレイアウトで表示されるのがリフロータイプの電子書籍です。小説などのテキスト主体の電子書籍では、今後、リフロータイプの電子書籍が増えていくことが予想されます。リフローページでは端末ごとに自動的な組版が行われるため、レイアウトによる表現は極端に制限されます。リフロータイプの電子書籍のページネーションはレンダリングエンジンやページングのインターフェースに関わる問題で、デザインというよりアプリケーションの、より根本的な部分に関係します。
一方、異なる読書環境でも一枚の画像を見るようにテキストや画像などの要素の位置関係が変わらないレイアウトのことを固定レイアウトと呼びます。漫画のように画像で構成される本や、カタログや雑誌などのように複雑な段組みを利用したレイアウトの書籍は、固定レイアウトのページとして表現されます。
固定レイアウトの電子書籍では、これまでの印刷物のデザインで有効であった、要素の大きさの差により生じるジャンプ率や画面分割による切り替えなどのセオリーが、ページ内の方向性を生み出すのに有効となりそうです。
「Flipboard」というiPad/iPhone用ニュースマガジンアプリがあります。このFlipboardは、ジャンプ率を高くとった見出しや不規則な画面分割などによってオンラインの情報を動的にレイアウトしただけの構成にも関わらず、かなり巧みにページネーションを実現しています。また、Flipboardのページネーションには、コンテンツのレイアウトだけでなく、所々に見られるアニメーションやページングのビジュアル効果も貢献しています。
電子書籍においては、単純なレイアウトのルールだけでなく、アニメーションやインタラクションまで含めて、情報の理解をナビゲーションする装置と考えることができます。
さらには、電子書籍端末を介してメモや感想をクラウド上のサービスに書き込んだり、お互いの批評や感想をインターネットで共有し合う、ソーシャルリーディング的なソリューションも増えていくでしょう。
デザインやユーザーインターフェース、リッチコンテンツの利用、Webサービスとの連携など現状の電子書籍には本のナビゲーションのために工夫できる余地が、まだ多く残っています。課題はたくさんあるものの、電子書籍によって私たちの未来の読書体験をより良くできる可能性もおおいに感じます。
コンテクストの連続性はページネーションか
ところで、ページを順番に読み進めることができるのが「本」の特徴の一つだとすると、索引から目的の項目のページに直接移動する百科事典や辞書は本らしくない本ということになるのかもしれません。百科事典や辞書におけるページの移動は、ページをめくって興味のあるトピックを直接探すか、あるいは索引を調べてページを訪れるといったように、データベース的でもありハイパーリンク的でもあります。百科事典の目次や索引のページから目的のページの間にあるのはコンテクストの連続性のみで、物理的な連続性はありません。
コンテクストの連続性はページネーションと言えるのでしょうか? コンテクストのつながりによるページネーションは、私たちにどんな体験をもたしてくれるのでしょうか? この問題もまた奥の深い問いになりそうです。
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第1回 本の価値から電子書籍を想像する
第2回 理解をナビゲーションする電子書籍デザイン
第3回 電子書籍と読書体験のクラウド化
第4回 EPUB 3
第5回「本」だけではない電子書籍活用アイデア
第6回 ブログから電子書籍を作るには(1)
第7回 ブログから電子書籍を作るには(2) (最終回)
本の情報は、基本的にページにそって順番に再生・体験することが前提。読者も、本を読むときはまず最初のページから順番に読むでしょう。
論文、技術書、ビジネス書など内容にロジックが問われる本は、それぞれの章同士の有機的なつながりを順番に読み解くことが次に続く章の理解の前提になり、さらには本の結語を理解するための前提になります。小説などでも、主人公の体験を、主人公が体験した時間を再現するように段々と読み進めることで、共感や物語への理解が生まれるはずです。
Webサイトのハイバーリンク(ページとページを結び付け、クリックすると別のページに移動する方法)のようにユーザーの自由な意思で選択的にコンテンツを体験するメディア(ユーザーインターフェース)では、本で論文や小説を読んだときのような深い理解や共感を得ることは難しいかもしれません。誰かに深く理解してもらえるように情報を伝えるという意図がある場合、「本」がやはり、他と比較して最も適したメディアだといえるでしょう。
電子書籍が単なる情報の書かれたページの集まりであるだけではなく、「本」であるために必要な課題の一つが、読者に対してページ順に読ませたり、コンテンツの持つ情報を最大に理解させたりするために、電子書籍独自のデザインルールをどのように実現するかということです。
電子書籍のページネーション
本の連続性のことを「ページネーション」と呼ぶことがあります。
ページネーションという言葉は使用される範囲が広いのですが(Webの世界ではページ間の移動のユーザーインターフェースをページネーションと呼ぶこともあります)、印刷物にしろ電子書籍にしろ「本」全般のページネーションを考えた場合、「ページと力」(鈴木一誌 著)のまえがきで解説されている以下のような定義が参考になるのではないかと思います。
“行が集まってページとなる。ページが累積して書物ができる。この過程を、
ページネーションと言う。ページネーションとは、本の一ページを生み出していく
行為でありつつ、同時にページ相互の連続性を誕生させていくことだ。”
ページネーションと言う。ページネーションとは、本の一ページを生み出していく
行為でありつつ、同時にページ相互の連続性を誕生させていくことだ。”
電子書籍は、パソコンやタブレットの画面にテキストや画像(そしてさらに動画などのリッチコンテンツ)を集めて「本」としての体裁を与えたものです。 一つのページを見ればWebページの要素とあまり変わりなく、またWebページのようにハイパーリンクを埋め込んでリンクから別のページを移動することも可能です。電子書籍を「本」のように連続性のある情報として体験してもらうには、「この方向に読み進める」という好奇心のベクトルをデザインやユーザーインターフェースとして画面に与える必要があります。
著者が記した情報に対する理解を深められるメディアであることが「本」の大切な価値です。理解を深めるナビゲーションのために、電子書籍のデザインやインターフェースにはページの連続性を生じさせるページネーションのルールが必要です。
画面上に実現するページネーション
電子書籍の画面にページネーションを実現するデザイン要素は、いったいどんなものになるのでしょうか?
電子書籍のページ構成には「リフロー」と「固定レイアウト」の二つのタイプのレイアウトがあります。
読書環境ごとに文字サイズや一ページの文字数を最適化し、端末ごとに異なるレイアウトで表示されるのがリフロータイプの電子書籍です。小説などのテキスト主体の電子書籍では、今後、リフロータイプの電子書籍が増えていくことが予想されます。リフローページでは端末ごとに自動的な組版が行われるため、レイアウトによる表現は極端に制限されます。リフロータイプの電子書籍のページネーションはレンダリングエンジンやページングのインターフェースに関わる問題で、デザインというよりアプリケーションの、より根本的な部分に関係します。
一方、異なる読書環境でも一枚の画像を見るようにテキストや画像などの要素の位置関係が変わらないレイアウトのことを固定レイアウトと呼びます。漫画のように画像で構成される本や、カタログや雑誌などのように複雑な段組みを利用したレイアウトの書籍は、固定レイアウトのページとして表現されます。
固定レイアウトの電子書籍では、これまでの印刷物のデザインで有効であった、要素の大きさの差により生じるジャンプ率や画面分割による切り替えなどのセオリーが、ページ内の方向性を生み出すのに有効となりそうです。
「Flipboard」というiPad/iPhone用ニュースマガジンアプリがあります。このFlipboardは、ジャンプ率を高くとった見出しや不規則な画面分割などによってオンラインの情報を動的にレイアウトしただけの構成にも関わらず、かなり巧みにページネーションを実現しています。また、Flipboardのページネーションには、コンテンツのレイアウトだけでなく、所々に見られるアニメーションやページングのビジュアル効果も貢献しています。
電子書籍においては、単純なレイアウトのルールだけでなく、アニメーションやインタラクションまで含めて、情報の理解をナビゲーションする装置と考えることができます。
さらには、電子書籍端末を介してメモや感想をクラウド上のサービスに書き込んだり、お互いの批評や感想をインターネットで共有し合う、ソーシャルリーディング的なソリューションも増えていくでしょう。
デザインやユーザーインターフェース、リッチコンテンツの利用、Webサービスとの連携など現状の電子書籍には本のナビゲーションのために工夫できる余地が、まだ多く残っています。課題はたくさんあるものの、電子書籍によって私たちの未来の読書体験をより良くできる可能性もおおいに感じます。
コンテクストの連続性はページネーションか
ところで、ページを順番に読み進めることができるのが「本」の特徴の一つだとすると、索引から目的の項目のページに直接移動する百科事典や辞書は本らしくない本ということになるのかもしれません。百科事典や辞書におけるページの移動は、ページをめくって興味のあるトピックを直接探すか、あるいは索引を調べてページを訪れるといったように、データベース的でもありハイパーリンク的でもあります。百科事典の目次や索引のページから目的のページの間にあるのはコンテクストの連続性のみで、物理的な連続性はありません。
コンテクストの連続性はページネーションと言えるのでしょうか? コンテクストのつながりによるページネーションは、私たちにどんな体験をもたしてくれるのでしょうか? この問題もまた奥の深い問いになりそうです。
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◆このコラムのほかの回を読む
第1回 本の価値から電子書籍を想像する
第2回 理解をナビゲーションする電子書籍デザイン
第3回 電子書籍と読書体験のクラウド化
第4回 EPUB 3
第5回「本」だけではない電子書籍活用アイデア
第6回 ブログから電子書籍を作るには(1)
第7回 ブログから電子書籍を作るには(2) (最終回)
Posted by eしずおかコラム at 12:00
2012年07月18日
第1回 本の価値から電子書籍を想像する
2011年10月、日本語拡張仕様が実装された電子書籍フォーマットのひとつであるEPUB3.0の最終推奨仕様が、IDPF(International Digital Publishing Forum=米国の電子出版業界の標準化団体)より発表されました。オープンな電子書籍フォーマットであるEPUBで日本語の高度なレイアウトが扱えるようになったことにより、iPadの発売以降日本でもくすぶり続けていた電子書籍ビジネスの熱の温度が一段上がりそうな気配がしてきています。
大々的に宣伝されたITソリューションが、生活になかなか浸透しないまま終わっていくことはしばしばありますが、これまでビジネス的な話題性が先行した感もある電子書籍は、われわれの生活にどのように普及していくのでしょうか。
米国のAmazon.comでは2011年初めに電子書籍の販売部数が紙版書籍を超えています。英国のAmazon.co.ukでもUK Kindle Store開設から一年未満で電子書籍の売上げがハードカバーの売上げを抜いたといいます。国内でも、電子書籍市場は緩やかではありますが規模を拡大しつづけています。
国内の雑誌・書籍販売額は減少し続けているとはいえ、現状の電子書籍の市場規模は紙の書籍の5%に届かない規模です。市場規模を見ればまだ先を占うのも難しい現状ですが、緩やかながらも成長を続ける電子書籍に、新しいユーザーをひきつけるフロンティアになるだろうと多くの出版関係者が期待しているのではないかと思います。
これまでマスメディアが担っていた情報を伝える役割がネットでのコミュニケーションに重心を移しつつある今、紙の本がこれまで行ってきた読者の創造や出版の文化の発展は、インターネットと親和性の高い電子書籍がどれだけ新しい価値を提示できるかにかかっているのではないでしょうか。
電子書籍のページは、基本的にHTMLや画像などで構成されます。個人の所有するコンテンツがクラウドに置かれて、どんな場所からでも自分の所有するコンテンツをインターネット経由で楽しめるようになる時代、ブログやニュースサイトの記事と電子書籍の差はかなり曖昧になっているようにも感じます。
それでは「Webページ」の集合を超えて、「本」として新しい価値を提供するためには、電子書籍はどのようなソリューションであれば良いのでしょうか。
電子書籍の価値を考える前に、従来の本の価値が何かを考えてみると、本にはまず情報(経験であったり物語であったり)を人に伝えるという基本的な機能があり、本の情報を伝えるという基本となる機能は、さらに細分化することができます。
ソリューションとしての本の付加的な価値は、「作る」、「運ぶ」、「ナビゲーションする」、「刺激する」という4つの機能であると考えることができます。以下に、それぞれの機能について詳しくみていきましょう。
1)作る
本の出版は、商業的に大規模に行われることもあれば、紙を綴じただけのごく簡単な製本によって個人的に簡単に行うこともできます。印刷技術の多くはコモディティであり、印刷コストは限界近くまで下がっています。
2)運ぶ
「本」は情報が書き込まれたデーターストレージであり、コンテンツ体験のインターフェースでもあります。書店で「本」を売ればデータとインターフェースをセットでユーザーに渡すことができます。「本」を誰かに手渡しすれば簡単に「本」を読んでもらう事ができます。本は、データとインターフェースを簡単に運ぶことのできるメディアだということができます。また、デザインされた本の装丁を見れば、本自体が「本」のPRとして機能していることがわかります。本はポータビリティの高い自分自身のPRメディアであるともいえるのです。
3)ナビゲーション
本はメディアであると同時に、ノートのようなツールにもなります。傍線を引いたり、書き込みをしたり、付せんを挟むことで本を理解するための補助とすることができます。
また、本の直線的な(プロローグからエピローグへとすすむ)ページ構成は、著者の考察の過程を再現し、理解の順序を読者に明示します。本は、ただ情報を示すのではなく、理解をナビゲーションする機能をもっています。
4)好奇心を刺激する
本の索引や見出しは、コンテンツの内容を想像させ、ページをめくらせるきっかけを作ります。優れた出版物のレイアウトは、ページの連続性を生み出し本を読み進める推進力になります。
簡単に作ることができ、人に読んでもらう事が容易で、理解を深め、好奇心を刺激することができること。これは、従来の本としては当たり前なことかもしれません。
しかし、これらの本の価値を新しいインターフェース、インターネットのコミュニケーション、クラウドやモバイルのテクノロジーの力を利用して実現することが、電子書籍が従来の本の価値を継承しながら普及するために超えなくてはならない最初のハードル なのではないかと思います。
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◆このコラムのほかの回を読む
第1回 本の価値から電子書籍を想像する
第2回 理解をナビゲーションする電子書籍デザイン
第3回 電子書籍と読書体験のクラウド化
第4回 EPUB 3
第5回「本」だけではない電子書籍活用アイデア
第6回 ブログから電子書籍を作るには(1)
第7回 ブログから電子書籍を作るには(2) (最終回)
大々的に宣伝されたITソリューションが、生活になかなか浸透しないまま終わっていくことはしばしばありますが、これまでビジネス的な話題性が先行した感もある電子書籍は、われわれの生活にどのように普及していくのでしょうか。
米国のAmazon.comでは2011年初めに電子書籍の販売部数が紙版書籍を超えています。英国のAmazon.co.ukでもUK Kindle Store開設から一年未満で電子書籍の売上げがハードカバーの売上げを抜いたといいます。国内でも、電子書籍市場は緩やかではありますが規模を拡大しつづけています。
国内の雑誌・書籍販売額は減少し続けているとはいえ、現状の電子書籍の市場規模は紙の書籍の5%に届かない規模です。市場規模を見ればまだ先を占うのも難しい現状ですが、緩やかながらも成長を続ける電子書籍に、新しいユーザーをひきつけるフロンティアになるだろうと多くの出版関係者が期待しているのではないかと思います。
これまでマスメディアが担っていた情報を伝える役割がネットでのコミュニケーションに重心を移しつつある今、紙の本がこれまで行ってきた読者の創造や出版の文化の発展は、インターネットと親和性の高い電子書籍がどれだけ新しい価値を提示できるかにかかっているのではないでしょうか。
電子書籍のページは、基本的にHTMLや画像などで構成されます。個人の所有するコンテンツがクラウドに置かれて、どんな場所からでも自分の所有するコンテンツをインターネット経由で楽しめるようになる時代、ブログやニュースサイトの記事と電子書籍の差はかなり曖昧になっているようにも感じます。
それでは「Webページ」の集合を超えて、「本」として新しい価値を提供するためには、電子書籍はどのようなソリューションであれば良いのでしょうか。
電子書籍の価値を考える前に、従来の本の価値が何かを考えてみると、本にはまず情報(経験であったり物語であったり)を人に伝えるという基本的な機能があり、本の情報を伝えるという基本となる機能は、さらに細分化することができます。
ソリューションとしての本の付加的な価値は、「作る」、「運ぶ」、「ナビゲーションする」、「刺激する」という4つの機能であると考えることができます。以下に、それぞれの機能について詳しくみていきましょう。
1)作る
本の出版は、商業的に大規模に行われることもあれば、紙を綴じただけのごく簡単な製本によって個人的に簡単に行うこともできます。印刷技術の多くはコモディティであり、印刷コストは限界近くまで下がっています。
2)運ぶ
「本」は情報が書き込まれたデーターストレージであり、コンテンツ体験のインターフェースでもあります。書店で「本」を売ればデータとインターフェースをセットでユーザーに渡すことができます。「本」を誰かに手渡しすれば簡単に「本」を読んでもらう事ができます。本は、データとインターフェースを簡単に運ぶことのできるメディアだということができます。また、デザインされた本の装丁を見れば、本自体が「本」のPRとして機能していることがわかります。本はポータビリティの高い自分自身のPRメディアであるともいえるのです。
3)ナビゲーション
本はメディアであると同時に、ノートのようなツールにもなります。傍線を引いたり、書き込みをしたり、付せんを挟むことで本を理解するための補助とすることができます。
また、本の直線的な(プロローグからエピローグへとすすむ)ページ構成は、著者の考察の過程を再現し、理解の順序を読者に明示します。本は、ただ情報を示すのではなく、理解をナビゲーションする機能をもっています。
4)好奇心を刺激する
本の索引や見出しは、コンテンツの内容を想像させ、ページをめくらせるきっかけを作ります。優れた出版物のレイアウトは、ページの連続性を生み出し本を読み進める推進力になります。
簡単に作ることができ、人に読んでもらう事が容易で、理解を深め、好奇心を刺激することができること。これは、従来の本としては当たり前なことかもしれません。
しかし、これらの本の価値を新しいインターフェース、インターネットのコミュニケーション、クラウドやモバイルのテクノロジーの力を利用して実現することが、電子書籍が従来の本の価値を継承しながら普及するために超えなくてはならない最初のハードル なのではないかと思います。
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◆このコラムのほかの回を読む
第1回 本の価値から電子書籍を想像する
第2回 理解をナビゲーションする電子書籍デザイン
第3回 電子書籍と読書体験のクラウド化
第4回 EPUB 3
第5回「本」だけではない電子書籍活用アイデア
第6回 ブログから電子書籍を作るには(1)
第7回 ブログから電子書籍を作るには(2) (最終回)
Posted by eしずおかコラム at 12:00